空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
すると、林田は堀田を避けて那知に一歩近付き、深く頭を下げた。

「那知……本当に…申し訳なかった」

「…林田さん…」

「僕は言われたとおり…弱い人間だった。那知と付き合う前から変わっていなかった。ずっと……那知の存在を…自分の強さだと勘違いしてた。…那知と別れて…那知のすごさが身に沁みた。僕はなんて何もできない人間なんだろうって…情けなかった。仕事だって…一人で営業に行くと僕は相手にされないんだ。必ず『東雲さんは?』から始まって『この場合、東雲さんなら何て言うか』とか『東雲さんに聞いておいてよ』とかって言われてさ。……本当にこんな自分が情けないよ…」

ふ……と憂いの表情を見せる林田に、那知が言う。


「…確かに尚人は弱かったよ。だから私が支えていこうと思ってた。…でもその考えは間違ってたって気付いたの」

「間違い…?」

「うん。強い方が弱い方を支えるんじゃなくて……お互いが自立しながら支え合うのが結婚なんじゃないか、って思うようになったの」

「そっか……僕は自立できてないもんな…」

「でも…それに気付けたのなら……きっと尚人は本当に強くなれるよ。あなたは優しい人だから、自分に負けない強さがあれば、もっと素敵になれると思う」


「那知……ありがとう。本当に…ありがとう。…僕は那知を好きになって良かったと心から思うよ。那知、2年もの間、僕と付き合って…いや、僕を支えてくれてありがとう。この2年は僕にとってかけがえのない時間だったよ。ありがとう……東雲さん」

と、那知に右手を差し出した。


「私こそ…ありがとう、林田さん」

那知もそれに応え、2人は固く握手を交わした。

下の名前でなく姓で呼び合った事で、林田は那知に対しての恋心を吹っ切ったのだろう。
とても晴れやかな表情だ。



……が。

「長い!…林田、いいから早く手を離せ、那知から離れろ」

なかなか握手を解かない事へ、シッシッと手で払いながら、苛立ちを隠さずに言う。

「けっ賢太郎さん!」

「那知、握手が長すぎる。林田、そんなに手を握りたいのなら俺の手を貸すが」

と俺が手を差し出すと、林田がパッと那知から手を離した。

「ははっ、十和田社長も余裕がない時なんてあるんですね」

「当たり前だ」

「…僕が言えた義理じゃないですが…那知を大事にしなかったら、今度は僕が奪いに行きますから」

「それなら来る必要はない。俺は一生那知を大事にするし、那知だけを愛する。…それが俺の幸せだからな」

「そこまで言い切ってもらえて安心しました。…東雲さん、お幸せに」

「林田さん…ありがとうございます」



そして林田は一人でこの部屋を出ていき、ずっと心ここにあらずの状態だった堀田もハッと我に返り、林田を追って出ていった。


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