空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
そして俺は…一つだけどうしても気になっていることを訊ねた。


「……那知。どうして俺を部屋に泊めてくれたんだ?」

やっぱ……これは聞きたい。

優しい那知のことだ、あの状況なら俺じゃなくても泊めただろうな…
って思いがやっぱあって。

それがいいとか悪いとかそういう事ではなく、ただ…

俺だから泊めた、と言って欲しくて。

俺は特別なんだ、と思いたくて。



すると、那知が「んー…」と手を顎にあてて少し考えた後に話し出した。


「…賢太郎さんだったから、かな」

「え…?それってどういう…」


「私、誰でも泊めてあげられるわけじゃないよ」

「…そうなのか?」

「うん。さすがに誰でもはね。やっぱり何かしら人間性やバックグラウンドが見えなきゃ怖いよ」

「まぁ、そりゃそうだけど」


「あの時……最初はね、賢太郎さんはとっても仲のいい常連さんなのかなって思ったの。だけど、黒田さんとのやり取りとか、黒田さんの賢太郎さんに対する雰囲気が、常連さんともお友達とも違う、もっと親しい…身内に近い間柄に見えてね。そこで、賢太郎さんはお宿の人から人間性において信頼とか信用がある人って見えて、私の中でOKが出たの」

「へぇ……じゃあそれは、常連なだけじゃOKは出ないんだ」

「うん。常連さんてお宿にとってはお得意様だけど、あの時の私みたいに第三者から見ただけじゃ人間性の信頼についてまでは推し測れないからね。…だから、もし黒田さんと名前で呼び合ってなかったり、あの砕けた雰囲気がなかったら、声は掛けなかったと思う」

「……すごいな……あれだけでそこまで判断してたんだ…」

「ん…もし心配になる事が出てきたらお部屋を仕切って貰うこともできたし、ベッドルームも鍵付きだったしね。でも、あの後すぐに、女将から身元保証の太鼓判を押してもらったから不安はなかったけど」

「はは、そうだったな」


「あと…これは本当に自分でも不思議なんだけど、賢太郎さんにはバリアを張らなくていい…っていうか、逆に張れない感じがしたの。……見惚れちゃったせいかな?なんて、ふふっ」


そっか、ちゃんと〝俺〞を信用して泊めてくれたんだ……

「ありがとう、那知」



「あの……賢太郎さんは…」

「ん?」

「…誘われたのが私じゃなくても泊まった?」


そうだよな、俺が気になるなら、那知も気になるよな。

でもな、安心しろよ。

「俺は那知だから泊まったんだ。他の女だったら誰であろうと断っていたよ」


「……何で?何で、私だから、なの?賢太郎さん、私の事、知らないよね?」

また赤信号で停止した隙に那知を見ると、きょとんとした表情で俺を見てた。


「ふ、さぁね」

「え?それってどういう…」

「まぁそれは追々」

「追々って…もう……ふふ、わかった」


あー…可愛いなぁ……

俺、こんなんで明日から仕事できるかな…
我ながら、あんなに女を毛嫌いして仕事に没頭してたのと同じ人間には思えないな。


「あっそうだ、高速乗る前に早めに昼メシ食べてくか。那知、何がいい?…じゃあ何が食べたいか、せーので言うぞ?……せーのっ」

「「パスタ!」」

「ははっ、揃ったな。そうだな……那知、すまないがナビで見てくれるか?」

「うん、もちろん!じゃあナビをいじらせてもらうね。…えっと……あ!もう少し先を右折した所にイタリアンレストランがあるよ。チェーン店ぽいけど、いい?」

「あぁ、俺は何でも」

「じゃあここにしよ!何食べよっかなぁ。ボンゴレロッソなんてあるかな~?ふふっ楽しみ。賢太郎さんは何が好き?どれが食べたい?」

「俺は那知がいいな。今朝も何度もおいしくいただいたけど、もうすぐにでも那知を食べたいな。…あぁ、そこのホテルに入るか」

「…なっ…ちっ…違うってば!」

「クッ……あっははは!…もう本当に那知は可愛い!」

「…またからかわれた……ぷぅ」

なんて頬を膨らませる那知の頭を撫でながら思う。


…ほんとに那知は可愛くてイイ女だよ。

やっと捕まえたんだ。
絶対に誰にも渡さない。

誰に何と言われても…
俺は那知と結婚するからな。

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