空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
動き出した運命

初めての気持ち/side賢太郎

 
良美さんに宿泊代を支払い、旅館を後にした俺達は、東京へと走り出した。


「きっぷも払い戻ししたし、土産も買ったし、後はほぼ走るだけになるけどいいか?どこか見ておきたい場所とかある?」

「ううん、私はお土産を見られただけで充分。さっきも言ったけど、賢太郎さんと一緒にいられるのが嬉しいんだ。もし…また一緒に来られたら、その時は一緒に観光したいな」

「あぁ、必ずまた来ような。今度は来る時も一緒だ」

「うんっ!」


嬉しそうな那知が本当に可愛い。
運転してるからチラ見しかできないが。


「あっ!そういえば、賢太郎さんて兄弟がいるの?」

「あぁ、姉と妹がいるけど……何で分かった?」

「分かったっていうか……さっき、お母様が亡くなってるって聞いた時、賢太郎さん、『俺達が子供の頃に』って言ってたから、兄弟がいるのかな?って思ったの」

「ほんと…那知って聡いよな」

「え?全然だよ。どっちかっていうとどんくさい方だと思うし」

「どんくさい……クッ……ほんと那知の言葉のセンス、好きだわ。…で、那知は自分でそう思うんだ?」

「うん。お友達の霧ちゃんは私と真逆で、頭の回転も早いし、行動もテキパキしててすごいの。だから余計に自分の行動がどんくさく見えちゃって。あっ、でも卑屈になるわけじゃなくてね。私には私のやり方があって、それが霧ちゃんとは違うだけで、って思ってるし、それは霧ちゃんも分かってくれてるんだ。だから大好きなの。ふふっ」


「へぇ……俺よりも大好きなの?」

「えっ!…それは…賢太郎さんと霧ちゃんとは好きの種類が違うし…」

ははは、那知が困惑してる。
真面目で可愛いよ、ほんと。
でも、そーなるともっとかまいたくなるんだよな。


「で?俺よりも大好きなの?」

赤信号の隙に那知をまじまじと見る。


「ほんとに比べられないけど……でも…賢太郎さんが一番好き。…ってもぉ……わかっててわざと言わせてるでしょ」

照れながら軽く睨まれた。

…何これ、クッソ可愛いんだけど。


「あっははは!やっぱ那知は聡いな!もう俺の狙いがバレてるもんな」

「聡いもなにも、からかわれてるのはもう分かってるし」


「…なんかさ、この感じ……すげー幸せだな。何これ。マジで俺こんなの初めてなんだけど。……那知は男と付き合ったらいつもこんな風に…幸せだったのか?」

「えっ?……ん…そうだね……幸せだったよ」

「…そうか…」


…ズキ……

って、自分で聞いといて何をショック受けてんだ俺は…
ていうかそもそも傷つく事じゃないだろ、過去の男の事なんか。



「でもね、こんな風に、強く、好きって思ったり…自分から行動したのは賢太郎さんが初めてなの」

「強く?」

「うん。…今まで付き合ってきた人って、熱愛!っていう、のめり込むような恋愛じゃなくて…穏やかに付き合ってた感じだったんだ」

「あぁ」

「私はそれで良かったの。心の中に波風も立たなくて、あまりストレスもなかったから」

「うん」

「でもね……最初の頃は幸せなんだけど……結局付き合いが落ち着いて慣れてくると、刺激が足りない、とか、面白味がない、とかそんな理由で他の女性に移っていっちゃったんだ。結局は尚人も…そうなんじゃないかな。……だから私って、ほんとにつまらない女なの」


「………」


何て言ったらいいかわかんねぇな…

那知のようないい子なら、幸せにしてもらえる恋しかしてきてないものと思ってたから…そんな事でフラれてるなんて意外だった。


「けど……それは改善しようとしなかった私も悪いんだ。相手の気持ちが変わってきた事がわかっても…自分から変わろうとか刺激を作ろうって思わなかったから」

「え?」

「だから……今考えると、もしかしたら私も相手にはそれだけの気持ちしかなかったんだろうな、って」

「…あぁ」


「でもね、賢太郎さんは最初から違ったの」

「…俺?」

「うん。そもそも私、初対面の男性とこんなに親しく話すことなんてできなかったし、ましてや自分からキスするなんて…」


「そうなのか?」

昨日も最初から普通に話してたし、キスだって普通にするように見えたから、那知にはそれが誰に対しても普通の行動なんだと思ってた。


「うん。それとね……会ってその日に…その…えっちしちゃうなんてのも初めてだったよ。…私、今までで一番早かったのですら付き合って2か月経ってからだから……会ったその日にだなんて、本当に自分でも信じられないくらいなの。ふふ」


そっか。

「俺だから、なんだ」

「うん。賢太郎さんだから、こんなに気持ちが動いて、行動に移せたの」



そっか。

「俺って、那知にとっては特別なんだ」

「うん。ほんとに特別な人なの」



そっか……


「やっば、何この胸のぶわぶわ感」

「…ぶわぶわ…感?」

「嬉しくて幸せで胸がこう、ぶわーっ!て膨らみそうな感じがすごいんだけど」

「ふふ……あははは!すごい表現だけど、わかる気がする!あはっ、あははは!ぶわぶわ…あははっ」


…那知にすっごいウケてる…
はは、こんなに笑ってくれると何か嬉しいもんだな。

「…ふ、変なんだ、ぶわぶわ感て。俺も初めて言ったけど」

「ふふ、変じゃないよ、あははは」
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