空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

──現在はお兄ちゃん家族の住まいとなっている私達兄妹の実家に、予定よりも早く着くことができた。


「琴江さん、こんにちは!ちょっと早く着いちゃったけど、お兄ちゃん、いる?」

「那知ちゃん、いらっしゃい!勇貴(ゆうき)なら奥でアルバム見ながら泣いてるわよ。那知ちゃんを嫁に出すのが急に惜しくなったみたいでね、アハハ。で、そちらが旦那さんになる方ね?」

「初めまして、十和田 賢太郎と申します」

「あっら~、イイ男じゃないの~。可愛い那知ちゃんにお似合いよ、このこのっ」

なんて琴江さんに肘で小突かれちゃった。えへへ。

「私は那知ちゃんの兄、勇貴の妻の琴江です、よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「じゃあ勇貴を呼んでくるね。上がって待ってて」

琴江さんに促されて、賢太郎さんとリビングで待ってたら、お兄ちゃんがのそのそとやってきた。


「那知、おかえり…」
充血した目を隠さずに言う。

「ちょっとお兄ちゃん、ほんとに泣いてたの!?」

「あぁ……アルバム見てたら……泣けてきて……ずずっ……那知、大きくなったなぁ……もう兄ちゃんの手から離れていくんだなぁ……ずっ…」

そんな感傷的なお兄ちゃんを見てたら…

「やだ、もう…お兄ちゃん……私まで泣いちゃうじゃない…」

思わず涙がこぼれると、賢太郎さんが頬をハンカチで拭いてくれた。

「那知、まだ泣くのは早いよ。それは結婚式当日じゃないのか?……って、そもそもまだお許しも頂いてないんだけど」

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「あっ、そうだった」
「そうだよ、俺まだ挨拶してないし」

「やっだ、もー2人はほんっと似た者兄妹よねー、アハハー」

って琴江さんがケラケラ笑うと、賢太郎さんが口元を片手で覆い、フイと横を向いた。

あ、肩が震えてる。
笑いを堪えてるんだね…
このタイミングでいつもの大笑いなんてできないもんね…


それから、何とか笑いを収めた賢太郎さんが、お兄ちゃんに向き合った。

「初めまして。十和田 賢太郎と申します。今日は那知さんとの結婚のお許しを頂くため参りました。……すみません、その前にご両親にご挨拶させて頂きたいのですが」

そう真剣な面持ちで言う賢太郎さんに、またまた見惚れてしまった。

「ありがとう、賢太郎さん。私が案内するね」



お仏壇を前にし、賢太郎さんは正座して姿勢を正した。
そしてお線香をあげ、丁寧にお鈴(りん)を鳴らすと、徐に手を合わせた。


実は……4か月前、結婚を意識し始めた尚人が、お兄ちゃんに挨拶したいと言い出して、一緒に来たんだよね、ここに。

もちろん尚人もお仏壇に手を合わせてくれた。

けど…賢太郎さんは、その比ではないくらい長かった。

手を合わせながら、お父さんとお母さんの写真を見て…
本当に挨拶してくれてるんだ…って思ったら、嬉しくてまた泣けてきちゃった。


だから私も賢太郎さんの隣に座り、心の中で話し掛けた。

お父さん、お母さん。
賢太郎さんとの結婚、許してくれるよね。
きっと賢太郎さんは私の事を大事にしてくれるから…安心してね。


…合掌を解いて賢太郎さんを見ると、先に挨拶を終えて私を見てたみたい。
ふっと柔らかい表情で頭を撫でてくれた。


「先にご挨拶させて頂き、ありがとうございました」

賢太郎さんがお兄ちゃんに言うと「では十和田さん、男同士こっちで話そうか」と、奥の部屋に賢太郎さんを連れて行ってしまった。


え……お兄ちゃん?

賢太郎さんに変なことしないよね…?

そんな気持ちが顔に出ていたのか、琴江さんに「大丈夫。勇貴は結婚を許してるから」って言われた。

けど…

何で連れてっちゃったの…?

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