令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
唇が離れるとヴィタはルークの耳元で吐息混じりにささやいた。


「愛してます。だからもっと私にのめり込んで。魂を震わせて……」

「……ヴィタ。ヴィタ……!」


名前を呼ばれるたびに震える。

再び唇が重なると同時にヴィタの中で時が止まったような気がした。

果実から溢れ出す密の味を知り、人としての何色にも染まる愛を知った。

地を這ったとしても、愛は甘い角砂糖のようなものだ。

それさえも全部溶かしてしまう。

それくらいに果てなく求められた愛にこたえたい。

指を絡めて、赤い舌がちろりと肌に触れた。


「んっ……!」


愛に飢えていたのなら、愛してみよう。

何度も出会い、何度も別れてきたからこそ、苦しんできた人を愛したい。

誘惑に誘惑をかさねて、甘く優しくささやいて。

そうすることで求愛されるのならば受け入れよう。

魂は結びついたのだから、愛を知っていこう。

今感じる愛より、未来ではもっと強い愛を。


「この心臓はヴィタ、君のものだ。愛してる。誰よりも、深く……」

それは天の最高峰よりもと、木に背中を押し付けて二人で地面に倒れ込む。


「私ね、ちょっとイジワルなくらいの甘さが好きみたい」

「……ほんと、君はずるい女だよ」


衣擦れと、甘い吐息が夜に紛れた。


はじまりの女は傷ついた美しき者をも愛する気高き者。

好きにならずにいれようか。

苦難の果てに得た目の前の甘い果実に一度失った光を見た。


「ルーク、愛してます。私の希望」


それは愛の象徴。

明けの明星と呼ばれた者は、愛を知り完全なる翼を得た。


ーーその女の魂に、永遠の誓いを。


後に語られるは「道を切り開いた気高き女の物語」。

悪魔にもなる存在を愛し、甘いささやきさえも抱きしめた。

天使であろうと、悪魔であろうとも。

この魂は優しく、愛し抜こうと決めた。

時に甘く、誘惑に身を委ねて愛を交わそう。


この手は慈愛のものか?

ただ一人を愛すると決めた狭き手か?


業火に焼かれる者さえ赦すは、愛からうまれたはじまりだ。

“もう、何度目の誘惑かわからない”

“やっと、愛してくれた”

それは優しいやさしい、淡く光輝く微笑みだった。


【令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を】(ハッピーENDルート 完)


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