追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

 私は、ジョーの隣で去っていくポーレット領御一行に頭を下げた。お兄様と離れて少し寂しかったが、こうやってジョーの隣にいられて幸せだ。
 ジョーを見上げると、ジョーは嬉しそうに私を見下ろしてくれる。この笑顔が大好きだ。

「アン。オストワル辺境伯領に残ってくれて、ありがとう。
 これからも、よろしくね」

 セドリック様がにこにこと私に言う。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 私は、深々と頭を下げていた。

 セドリック様にはお世話になりっぱなしだ。見ず知らずの私を迎えてくださって、家や職場まで用意してくれた。お兄様も温かく迎えてくれた。私は、セドリック様にも恩返しをしなければいけない。

「そうそう。結婚式の日取りも決めなきゃだけど、アンはジョーの婚約者なんだし、騎士団長邸に引っ越したら?あの別荘では窮屈でしょー?
 それとも、ジョーはグランヴォル家に帰るのかな?」

 思わぬ言葉にぽかーんとする私だが、ジョーはセドリック様に告げる。

「俺は次男だから、グランヴォル伯爵領の領主になるつもりはない。
 アン、騎士団長家に引っ越そう」

 ちょっと待って!いきなりの共同生活!?私、まだ心の準備が出来ていないのだけど……
 真っ赤な顔の私だが、ジョーは至って普通だ。そのまま真顔で告げた。

「俺の妻となると、俺のことを憎む奴から狙われるかもしれない。
 アンには、すぐに助けられるところにいて欲しい」

「それなら、やっぱり剣の練習をしなきゃね」

 ジョーにそう告げていた。
 ヘンリーお兄様を憎む人がいたように、ジョーを憎む人だっているだろう。
 私は今回の一件で、ジョーにもたくさん心配をかけた。これからは、ジョーと心穏やかに過ごしたい。

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