追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
薬師として、新たな地で働きます
 オストワル辺境伯邸は、周りを高い塀に囲まれたとても大きな館だった。豪華な照明が輝き、すれ違う人は頭を下げる。そして黒い服を着た騎士は、ジョーにぴしっと敬礼するのだ。

 こんな広大な豪邸の一番奥の部屋で、私たちはオストワル辺境伯に会った。髭の生えた厳しい顔のオストワル辺境伯は、ジョーを見た瞬間に嬉しそうに顔を歪めた。

「ジョー、おかえり。生きていたのか。街中は君の話題で持ちきりだ。」

「ただいま帰りました。長い間席を空けてしまい、ご迷惑をおかけしました」

 ジョーは辺境伯に頭を下げる。

「迷惑などかかっていない。
 君がこの地に戻ってくれたから、この地もまた安泰だろう」

「勿体無いお言葉です」

 ジョーは一体何者なのだろう。そしてその強さは、やっぱり折り紙つきなんだ。二人の会話を見ながら、そんなことを考えている。

 ジョーは頭を垂れたまま続けた。

「私は絶命するところだったのですが、運良くこちらの薬師、アンに助けていただきました。
 アンはトラブルにより故郷を追われ、行く宛もなく彷徨っていたので、連れて参りました」

「えーッ!?結局、王都まで辿り着かなかったの!?」

 不意に明るい声がした。驚いて声の聞こえたほうを見ると、なんと扉の前にはジョーと同じくらいの男性が立っていた。辺境伯と同じ茶色の髪に茶色の瞳、顔の作りもそっくりだ。おそらく辺境伯爵の息子だろう。彼は辺境伯とは違い、チャラチャラした態度でジョーに話しかける。

「ジョーともあろうものが王都まで辿り着かないなんて、何があったのぉ!?」

 そんなチャラ息子を、

「セドリック」

 ジョーは呼び捨てにする。どうやら仲良しらしい。

「俺はこの街の薬師でも手に負えないほど、病状は厳しかったのだ」

「えっ?でもその娘が治しちゃったんでしょー?」

 チャラ息子セドリック様は、興味津々に私を見た。そして、まるで品定めするかのように口元に手を当てて呟くのだ。

「それにしても、そんなすごい薬師には見えないよねぇー。薄汚れてて、色気もないし。
 あっ、でも意外と可愛い顔して……」

 セドリック様は、そこまで言って口を噤んだ。というのも、ジョーから凄まじい殺気を感じ取ったからだ。
 隣にいる私でさえ、その怒りのオーラに圧倒されて倒れてしまいそうだ。
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