追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「セドリック」
ジョーは、聞いたこともない地獄の底から出てくるような低い声で話す。
「お前がオストワル辺境伯の息子だとしても、アンを侮辱するなら殺す」
じょ、冗談じゃない。今のジョーなら、本気で殺してしまいそうだ。
こんな怒りに満ちたジョーに、セドリック様は焦ってごめんごめんと謝る。
「だけど、ジョーが女の肩を持つなんて……恋だよねー?
その薬師に、惚れ薬でも盛られたんじゃない?」
セドリック様は頭が軽いのか鈍感なのか、すごいと思う。私は殺気に満ちたジョーを前に、そんなことは言えない。
とうとう、セドリック様の殺気を感じ取った辺境伯爵が
「セドリック」
セドリック様を嗜めて事なきを得た。
それにしても、惚れ薬だなんて……ジョーは私を命の恩人と思って大切にしている訳だし、恋愛感情はない……と思う。分かっているが、そう考えると胸が痛むのも事実だった。
「ジョー。僕たち友達なんだし、せっかくだから、君のことを応援したいんだよねー」
セドリック様はまた変なことを言い始めるのかとビクビクしたが、彼は意外にも私に親切に言ってくれたのだ。
「アン、行く宛がないんでしょ?
この街でジョーといてくれるなら、この街の薬師ソフィアの治療院を紹介するよ。ジョーを治療出来なかったソフィアだけどね。
それに、僕の別荘を一件貸してあげる」
「えっ!?」
予想外の高待遇に、驚きを隠せない。どうして見ず知らずの私に、ここまでしてくれるのだろうか。
「ありがとうございます」
深く頭を下げる私に、セドリック様は告げた。
「ジョーを助けてくれたお返しだよー。
ジョーがいなかったら、オストワルも昔のように治安が悪化するだろうからね」
セドリック様は軽々しくウィンクなんてするが……その言葉はあながち間違いではないのかもしれない。だって、ジョーは本当に強かったし、街の人からも恐れられているようだったから。