追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
国一番の騎士が、甘くなりつつあります
 午後の診療も、午後に負けず劣らず大変だった。私は薬草を鍋にかけながら、患者に鍼治療をしたり、薬の飲ませたり、まさしく一人三役のように忙しく駆け回っていた。だが、こうやって忙しくしていたほうが、心が楽だった。何しろ、ジョーのことばかり考えてしまうから。

 今日、本当にジョーは私の様子を見に来てくれた。騎士団の仕事だってあるだろうに。そして、周りからまた変な目で見られるだろうに。だけどそこまでして、私に会いに来てくれたことに心を打たれる。
 しかも今日のジョー、すごくかっこよかったなぁ。騎士団の隊服、すごく似合っていた。あれではモテるはずだろう。
 気を許すとジョーのことばかり考えてしまう私は、確実に心をジョーに奪われ始めている。

「アン様、ありがとうございました!アン様の鍼治療のおかげで、見ての通り手が動くようになりました」

「それは良かったです」

 嬉しそうに、手を握ったり開いたりする患者を見て、私まで嬉しくなる。だけどこの患者も二言目には言うのだ。

「ジョセフ様も素晴らしい女性を選びましたね。
 最強の騎士様と、最高の薬師様、この国も平和になりますよ」

「そ、そんな、最高だなんて。
 ……それに、私とジョセフ様は、恋仲ではありません」

 必死に弁明しながらも、心がずきんと痛んだ。こうやって私の腕を認められ、どういうわけかジョーの恋人としても認められている。これほどまでに嬉しいことはないのだろうが……
 実際、私とジョーはそんな関係でもないし、何しろ身分が違う。期待すればするほど、その結末は悲しいものとなると分かっているのだ。
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