追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「アン……辛かったんだな」
予想外のその言葉に、私は固まってしまう。
「今まで一人で隠して、耐えてきた。
だけど今は違う。俺だって、ソフィアさんだっている」
「うん……」
その温かい気持ちが嬉しい。私は追放されてもいいような人間なのに、こうやって頼ってもいいだなんて言われると……迷惑をかけると分かっているのに、頼りたくなってしまう。
ジョーが優しい笑みを浮かべ、そっと髪に触れる。例外なく、どきんとする私。
「アンは、これからもこの地にいたいか?」
すがっては駄目だと思う。だけど、こうも甘い言葉と態度で示されると、抵抗すら出来なくなってしまう。
私は、こくんと頷いていた。そして告げる。
「王宮の中は安全だけど、同じ毎日の繰り返しだった。
豪華な宮殿に、広い治療院。街も整然としていて、人々はただ忙しなく過ごしている。
でも、ジョーと旅していた時、毎日がこんなにも楽しくて刺激的なのだと初めて思ったの」
交代で見張りをして、眠っているジョーを見てときめいた。
ジョーが捕った鳥の肉は、頬が落ちるほど美味しかった。
無駄話をしながら歩いた道。雨上がりの虹。山から見下ろした絶景……
どれもこれも初めての体験で、私が知らない世界がこんなにあることに驚いた。
「この街に来てからも、みんな優しくて、距離が近くて、お節介で……
私なんかを慕って顔を出してくれる人とか、ケーキを持ってきてくれる人とか……
今日だって、ジョーの呼びかけでみんなが私を守ってくれた。
私は、この街が好き。オストワルに、これからもいたい」
「そうか……」
ジョーは目を細め、心底嬉しそうに笑う。愛しいジョーの故郷は、私にとって桃源郷だったのだ。
ジョーが好き。オストワルが好き。私は、初めて自分の居場所を見つけたのだ。