好き避け夫婦の秘めごと 7年越しの初夜
ガチャッとドアが開き、隙間から、髪から雫を垂らす彼が顔を覗かせた。
「……呼んだよね?」
「あっ、ごめんなさいっ!」
再び慌てて手で顔を覆う。
けれど、瞬間視能力は長けている方だ。
細身の体なのに、しっかりとついた筋肉。
しなやかな肉体美と言えるほど、均整のとれた体躯。
水も滴るいい男とは、彼のような人のことだ。
今すぐ紙に描き留めたい衝動に駆られる。
「あの、会話しながらでもいいですか?」
「……そうだね、その方が助かる」
すりガラスのドア一枚。
けれど、そのドア一枚に隔たれた先は未知の領域だ。
再びドアが閉まる音がして、すりガラスの奥に彼の気配を感じる。
これはこれで、艶めかしく刺激が強いのだけれど。
「今何をされていますか?」
「えっと、ボディタオルにボディソープつけてたところ」
「髪はもう洗い終わったんですか?」
「……ダメだった?」
「いえ、大丈夫です」
質問をするのもドギマギしてしまう。
浴室だから、彼の声が反響する。
元々落ち着いた色気のある声音だから、無駄に変な妄想をしてしまいそうだ。
すりガラス越しに彼が動いているのが何となく分かる。
自分が入浴しているのを、ドアの外で彼が見ていると思ったら、途端に顔から火が出そうになった。
私、なんて失礼なことを彼にお願いしてしまったのだろう。
後悔先に立たず。
下品な女だと思われただろうな。
「体は、どこから洗う派ですか?」
「ん~、まずは髪だけど、髪以外なら足先?……いや、手のひらかな」
「手のひら?」
「……ん。泡のついたボディタオルを手にして、無意識にもう片方の手を洗ってる気がする」
「手のひら……あっ。士門さんっ、ありがとうございました!もう大丈夫です!!私、仕事に戻りますね?」