あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?
 父に冷たくされ傷ついた孤独な王子様を放っておくことが出来ず、まだ身分差の意味がわからなかった私は、シェーマス様をどこにでも連れ回したものだ。

 今では無礼者、不敬罪と言われるようなことも、たくさんしたような気がする。

 もちろん分別のつく年齢になってからは、そんなこともないけれど……そんな訳で、シェーマス様にとってみれば、私の母が実の母代わりで、私は実の妹のようなもの。

 いまのところ私は名目上の、婚約者……ではあるけれど、私はシェーマス様と結婚する訳ではない。今だって、彼は必要なエスコートなどはしてくれるけれど、ただそれだけだ。

 私たち……好き合って、こうして婚約した訳でもないけど……いつも通りの気のない様子に、口からため息がもれてしまう。

 彼にとって私は望みなんて何もない恋愛対象外の存在なのだと、まざまざと思い知らされてしまうから。

 夜会の応接用に準備された小部屋へと入り、護衛を廊下に待たせ扉を開けたままで、私たちは柔らかなソファへと腰掛けた。

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