俺が貴女を護ります~エリート海上自衛官の溺愛~
 結芽に初めて怒りをぶつけられた母は、黙ってボールペンを持ち、婚姻届の証人欄に必要事項を記入していった。
 それをじっと見つめる結芽の視線は、まるで監視をしているようであった。

「……はい。書いたよ」

 生年月日や氏名、住所、本籍の記入と捺印を確認して結芽が婚姻届を受け取る。

「ありがとう」

 結芽が立ち上がると、航平も立ち上がる。母は脱力してテーブルに伏せていた。

「じゃあ今日は航平くんの家に泊まるから。ありがとね、お母さん」

 結芽が颯爽と家を出ていき、航平はその後をついていく。

「あんなに声出せたんだな、結芽って」
「私の幸せな結婚を潰そうとしたのが許せなかったのよ」

 結芽は左薬指にはめられた婚約指輪をいじる。
 婚約指輪はつい先日、海の見える場所で夜の散歩中にさりげなく渡されたものであった。ディナーやホテルなどの特別な場所ではなく、海が見える場所を選んだ航平に、航平らしさを感じて嬉しかった。もちろん、結婚をするつもりであったから、指輪を受け取った。
 その指輪のおかげで、結芽の心が固まったのだ。

「そうか」
「そうよ。私があんな風になれたのは航平くんのおかげよ」
「俺?」
「うん。自分に自信がなくて、自分なんかって思っていたもの。でも、航平くんは私のことを認めて、受け入れて、愛してくれたから。だから、私は変われたの。ありがとう」
「こちらこそ。愛する人の傍にいて、その人を俺が護ることができるのも本当に嬉しいよ」
「ふふふ」

 航平は結芽に手を差し出し、手を繋ぐように促す。それを見た結芽は心が幸せで満たされ笑みがこぼれる。航平の大きく厚い手を握って隣を歩く。
 そして、結芽と航平は車へ乗り、航平の家へと向かった。新たな人生の始まりに胸を弾ませながら。
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