毒で苦い恋に、甘いフリをした。
風は相変わらず生ぬるい。
だけどずぶ濡れの体をどんどん冷やしていく。

ゆうれいがくれた言葉に返事ができなかった。

どの言葉を選んでもゆうれいが望んでいることは言ってあげられない。

嫉妬があまりにも重たくて、
かっちゃんの幸せそうな顔を見るたびに傷ついたって、
私が恋してるのは絶対にかっちゃんだから。

「ゆうれい…そろそろ離れてよ」

「ちょっとムリかも」

「え?」

「目のやり場に困る」

制服がずぶ濡れで、中が透けている。
さっき、羽織っていたカーディガンもブレザーも脱ぎ捨てていたからだ。

なんでかな。
ゆうれいがあまりにも優しい言葉をくれるから自然とゆうれいの背中に回してしまっていた腕。

手のひらにゆうれいの肩甲骨の形や感触が伝わってきて急に恥ずかしくなってきた。

「もう…せっかくいいこと言ってたくせに変なこと言わないでよ…」

雨が降り出した。

まただ。今朝はあんなに太陽が眩しかったのに。
この春は雨が降ってばっかり。

とっくにびしょ濡れの私達にはもうどうでも良かった。

「ゆめ、早く帰ろう。風邪ひいちゃうから」

「でも良かったね。海に飛び込んだことがバレずに済むね」

私の頭をくしゃっと撫でてから、
ゆうれいは砂浜に投げ出していた私のセーターを掴んできて、着せてくれた。

雨にさらされて濡れてしまっているけれど、
冷え切った体には温かかった。

だけどゆうれいの体温のほうがもっとあったかい気がした。

ゆうれいがぶつけてくれた想いに答えが出せないまま、びしょ濡れの体でバスに揺られて地元まで帰る。

いくら突然の雨だからってあまりにも濡れすぎている私達を怪訝そうに周りは見ていたけれど、
私達は気にも留めなかった。

ゆうれいが当たり前に握り続けていた手のひらも、振りほどけなかった。
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