毒で苦い恋に、甘いフリをした。

ほんとの初恋?

土曜日。

案の定、風邪をひいた。
ふらふらする頭でゆうれいにメッセージを送ってみたら、
「昨日の夜から一生無重力空間みたいな夢ばっかり見る」らしい。

どうやら限界みたいだ。

「ゆめー。お見舞いに来てくれたわよ。風くんが」

「………えっ」

一階の玄関から、二階の私の部屋まで大声で言ったお母さんに返事をする間もないまま、
部屋のドアが開いた。

「結芽、平気?」

「ちょっ…ちょちょちょっと…かっちゃん…!来てくれるなら言ってよ!」

「あれ、だめだった?」

「だめっていうか…こんな汚いカッコ…」

「なーに今更気にしてんの?お前がダウンしたときはいっつも来てんだろ?」

「そうだけど…でも、だって…」

スッて伸びてきたかっちゃんの大きい手のひらが私のおでこに触れた。

ひんやりして気持ちいい。
ゆうれいよりも…低めの温度。

「んー。まだちょっと熱いな」

「か…かっちゃん、汚いよ。汗もかいちゃってるのに」

「どうしたんだよ。今更照れることじゃないだろ?あ、そっか。熱で本調子じゃないからか。ごめん」

「そんなんじゃ…」

もう…。かっちゃんてばほんと鈍感。
本当に1ミリも私のことは恋愛対象じゃないんだなぁ。

だってきっとこころちゃんになら、こんなことできるわけないもん。

「これお見舞い」

かっちゃんがコンビニの袋からゼリーを三個取り出して、部屋の真ん中の丸いテーブルに置いてくれた。

パインとみかんと桃。
全部好きな味。

「ありがと」

「今食べる?」

「ううん。後でにする」

「ぬるくなっちゃうよ」

「大丈夫。それでも絶対においしいから」

「そう?」

かっちゃんがくれたんだもん。
どんなになったって世界で一番おいしいに決まってる。
たとえ賞味期限が切れてしまったとしても。
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