魔術師団長に、娶られました。
「私、アーロン様を知りもしないまま、ずっと苦手意識を持っていたんですけど、今日お話をしてみてわかりました。想像の500倍くらい優しかったです」

 それまで余裕そうにしていたアーロンだが、落ち着きのない様子で足を組み直した。

「逆に500分の1の俺の言動は、どのくらい鬼畜外道として想定されていたのか興味があります」

 今までどう思っていたんですか? という確認らしい。
 シェーラは今日この場に来るまではアーロンに冷ややかに対応されることを想定していただけに、「ええとですね」と思い返しながら答えた。

「『お前のような野蛮な女が見合いだの嫁入りだの百年早いわ。俺を誰だと思っている? この、山から下りてきたばかりの野猿め!』って私を冷酷に罵る感じですかね」
「誰ですかその男。今から殺してきます」

 速やかにアーロンは立ち上がる。
 その右腕にはすでに暗黒めいた魔力が渦巻いて絡みついており、バチバチと火花のようなものが散っていた。
 あっ、と声を上げてシェーラも立ち上がる。

「感じ悪いver.アーロン様(概念)です! 非実在です!」
「非実在だろうと、俺がその気になって倒せない相手はいません。絶対に許さない」
「あぁぁ……、その……ここは私に免じて収めてください」

 強烈な魔力を帯びた右腕に手を伸ばし、シェーラはぼそぼそと告げる。
 その指先が触れるかどうかの距離で、アーロンは溢れ出していた殺気と魔力を収めた。
 シェーラはほっと息を吐きだしながら、ためらいつつ指先でアーロンの手に触れた。

「ものすごく女性にモテる男性なら、私のような女は相手にしないだろうって、勝手に思い込んでいただけです。でも、そんなわけないですね。私みたいな相手にも優しいから、女性にモテるんですよね?」

 当初は「モテるがゆえに女性を軽んじる男性」と悪い方に考えていた。
 しかし、アーロンの場合は「モテるくらいに性格が良い」ということがわかってしまった。

(……だと思う。私、甘く考えすぎかな? 男性に耐性がなくて、騙されているだけ? だけど私は騙すほどのメリットもない相手だし。それとも、アーロン様は騎士団と魔術師団の抗争の終結のために無理をなさってる?)

 ぐるぐる考え始めた理由は、いたって単純。
 シェーラ自身が、アーロンは()()()()()()だと信じたいのだ。
 アーロンは、シェーラの指先が触れた手を見下ろして、軽く指を絡めながら、口元をほころばせる。

「あまり、自分のことは卑下しないようにしましょう。それ以上言うと、あなたが嫌だと言っても、俺はあなたの良い点を並べ立てて追い詰めますよ?」
「……あれっ?」

 言動が鬼畜外道になっていませんか? とシェーラが首を傾げたところで、アーロンは優しく手を引いた。

「それでは、食事も済んだところで、少し歩きましょうか」

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