魔術師団長に、娶られました。

手をつないで、一緒に歩く

 視線を感じる。
 店を出て歩きだして、シェーラはすぐに確信する。

(やっぱり、監視が付いてる。それはそうだよね、騎士団と魔術師団の仲が改善できるかどうかがこのお見合い? にかかっているとするなら、監視くらいつくよね……!)

 シェーラが気づいている以上、アーロンも気づいているだろう。
 だからこそ、仲良しアピールで手を繋ぐのは必須なんだと、シェーラは自分に言い聞かせた。これは必要な対応である、と。
 しかし、監視がついているのはほぼ間違いないとして、それがどの方向に何人くらいいるのかの特定が、意外に難しい。
 なにしろ、それ以外の一般市民からの視線も強く感じるのだ。

 並んで立つアーロンを、シェーラはちらっと見上げた。
 艶々の黒髪に、澄んだ瞳。肌理(きめ)細やかに整った白い肌の印象もあり、その超然とした横顔はやや人間離れして見える。溜息が出るほどの美貌。視線を集めるのも、頷けるというもの。シェーラだって、状況が許すならいつまでも見ていたい。

「顔に、何かついてます?」

 すぐに視線を外すつもりだったのに、遅れたせいでアーロンに気づかれてしまった。
 紫水晶のような瞳を向けられて、シェーラは「ついていません」と即座に答えた。

「見惚れただけです。本当に、顔が良い」
「ああ……なるほど。光栄ですが、それを言ったら俺だってシェーラさんのこともっと見たいです。穴が開くくらいずーっと」
「見ても面白くないですよ?」
「面白いですよ。永遠に見ていられます。顔のパーツ、全部好きなので」

 なるほど、パーツが好きなのか。……なるほど? とシェーラは中途半端に納得をする。アーロンに対して「見た目に気を取られた」と伝えるのは失礼にあたるのではないかと、言ってから気になっていたが、アーロンも自分の見た目を気にしていたのならここは相殺で良いかな、と勝手に引き分けにした。
 それから、遅れてじわっと羞恥心に襲われた。

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