魔術師団長に、娶られました。
「安心した……かも?」

 自分でもまだ整理がつかず、シェーラは首を傾げる。
 その曖昧な態度を受けてアーロンは、さらに押すことに決めたようで、立て板に水のごとく並べ立てた。

「俺は寄りかかられても倒れたりしないし、俺といた方がシェーラさん一人で行動するより良かったと思えるように力を尽くします。そのうち、シェーラさんは一人だとつまらなくて、二人でいる方が楽しいって思うようになる。つまり、シェーラさんは俺に会いたくなるんです。頼るためじゃなくて、ただ顔を見たいだけ。利用したいんじゃなくて、些細なことでも助け合いたい、相手の力になりたい、そういう気持ちだけで。一緒にいることが、二人の喜びになる」

 ダメ押し。
 もしそれを口にしたのがアーロン以外の人物であったら、シェーラは戸惑っただけかもしれない。頷くことはできなかっただろう。
 アーロンが相手でさえ、迷いはある。

(会いたくなる……。一緒にいたくなる。アーロン様と)

 一緒に食事をして、会話をする。
 こんな面倒くさい話をぶつけても、躊躇なく自分の考えを言ってもらえて、話し合える。そういう関係。
 それは即座に愛とは呼べないにせよ、心地よい。

「私はそれで良いとして、アーロン様には何か見返りがありますか?」
「あります」

 即答されて、シェーラは「ああっ」と大きな声を上げた。
 忘れるところだった。真の目的を。

「そっか。騎士団と魔術師団の仲直り、ですね。アーロン様の場合、魔術師団長としてメリットがある、と。すみません、個人的な会話が弾んでしまったせいで忘れるところでした!」
「ん? シェーラさん、ん? いまかなり良い空気になりかけたのに、最後の最後で明後日の方に話が飛んでないかな。え~っと」
「飛んでないですないです、むしろ軌道修正しました。は~、政略結婚ですもんね! 私、完全にアーロン様に恋をしている気分になっていましたけど、これ、政略結婚ですもんね! あ~、ドキドキしたなぁもう。アーロン様、かっこいいんだもん。政治的な話だってわかっていても、恋愛みたいでした!」

 大事なことなので、何度も繰り返す。
 忘れないように、自分に言い聞かせるために。
 アーロンはぼさっとした、寝起きのように腑抜けた顔でシェーラを見て、小さくため息を付いた。

「わかりました。今日のところはそれで良いです。明日朝起きたときに、今日楽しかったことを思い出して頂けるように、この後も全力で思い出づくりをします。景色の良い場所に行ったりして。デートなので」
「良いですね!」

 シェーラが同意すると、アーロンは繋いだ手を離し、「失礼」と言って、シェーラの細い腰を片腕で抱き寄せた。「え、わ、あれ?」とシェーラは焦ったものの、アーロンの腕の力は強く、押しのけることができない。
 そのまま、アーロンは遠くの空を見上げて言った。

「それじゃ、景色の良い場所まで飛びますよ。暴れないでください、落とすと危ないので」

 地面を蹴り、空へと飛び上がった。



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