魔術師団長に、娶られました。
「えっ……」

 ぐずぐず考えている間に、さらっと、返されてしまった。

(アーロン様、いまの私の話、聞いていましたか? 普通なら、ここは面倒な女だなって了解して「そっか、頑張ってね」って突き放して、そそくさと去って二度と連絡しようと思わない場面ですよ!)

 不思議がるシェーラに対し、アーロンは真面目くさった顔で言った。

「シェーラさんは仕事に力を入れてきたということですが、そのシェーラさんより、俺は仕事において出世していまして、実力も地位も収入もあります」
「はい」

 シェーラは副騎士団長だが、アーロンは魔術師団長だ。単純に比較して、きっちり上だ。

「さらに、シェーラさんほどではないにせよ、戦闘職なので体も鍛えています。その点でも、大きく引けを取ることはありません」
「……そうですね」
「その他諸々、客観的に見てシェーラさんに特に負けているつもりはないんですが、それでも俺は頼り甲斐がないですか? デートの舵取りすら任せられない?」

 結論が、デートの舵取りであることに、シェーラは内心(あれ?)と引っかからなくもない。国内屈指のハイスペックエリートの能力の見せ所が、デートとは。
 むしろそれはやらせてはだめなやつでは、エリートの無駄遣い、とシェーラは若干焦って早口となる。

「アーロン様にとって、負担ではと、思っているだけです。不当な仕事配分といいますかもっと違うことに能力を使うべきひとで」

「不当だなんて思わない。今この場には俺とシェーラさんしかいなくて、デートという共同作業中で俺が舵取り(それ)を引き受けないってことは、シェーラさんが全部引き受けるってことですよね? 俺はその方が嫌だ。だいたい、こういうことは、負担じゃないしむしろ嬉しい。頼られるの大好きだし、会話に詰まるくらいならがんがん喋るし、行き先が決まらないならさっさと決めたいタイプ。俺はそういう性格。怖い? 嫌? 支配的でヤバい?」

 矢継ぎ早に尋ねられて、シェーラはもはや、感心の域だった。

「頼られるのが好きだなんて、そういうひと本当にいるんですね。利用されても構わないってことですか」
「構わないですよ。俺、全然余裕なので。そのへんの男よりよほど何でも持っているので、たとえ悪意ある人間に近づかれてむしり取られても、ノーダメージです。減り過ぎたら稼ぎます。あまり侮らないように」

 最終的に、にこっと微笑まれた。
 そこに言い知れぬほどの強い圧を感じて、シェーラは「はい」とお利口さんな返事をした。

(そっか、そうかも。アーロン様は、私より全然強いんだ……。たぶん私以上に、自分ひとりでなんでもできる。そんな相手に私がいくら吠えても)

 お前ごときに何ができるんだ、と。「俺に任せておけ」がこれほど似合うひとも、世の中にそうそういないんだな、と納得してしまう。

「私も、頼るよりは頼られる方が、自分でいろいろコントロールできるという意味で楽なんですけど。そのくせ都合よく使われたり、利用されるのは嫌だなって思ってしまう小者です。アーロン様は、格が違いますね」

 決して、阿諛追従(あゆついしょう)ではなく、心からの称賛を口にする。アーロンは笑みを浮かべたまま、爽やかに尋ねてきた。

「少しは安心した?」
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