魔術師団長に、娶られました。
(「えっ」?)

 きょとんとして、シェーラはエリクを見る。
 目をぱしぱしぱし、と瞬いて見つめ返されて、ん? と首を傾げながら、シェーラは念のため尋ねた。

「何か?」
「ああ、いえ。ええと……、それはもう、恋愛で良いんじゃないですか? あ、団長すみません、発言許可も取らず出過ぎた真似を」
「いやいい、いい。話していいぞ、エリク。もっと言ってやれ」

 手の中でさらに書類をぐしゃりと握りしめたバートラム。あんなに握り潰して大丈夫かな? と心配になるシェーラをよそに、エリクがいつもながらに理路整然とした話しぶりで確認をしてきた。

「昨日お二人は、街で過ごした後、どこまで」
「アンデイヴ山の山頂まで。夕日が綺麗でした!」
「ああ~、はい、なるほどなるほど。山登り。登頂。ん~~、さすが良いデートコースですね!」
「そう思います。私には全然考えもつかないルートで。魔法使いってすごいんだ! って思いました」
「了解です、魔法使いはすごい。ところでキスくらいしました?」
「キス?」










「あっ、すみませんすみません、これは僕が聞いてもセクハラですねいまのは忘れてください無し無し。はい。二人の仲はアンデイヴ山まで進行したと。素晴らしい」

 書類を小脇に挟んで、ぱちぱちぱち、と拍手を始めるエリク。
 一方のバートラムはやや不服そうな顔で椅子の背もたれに背を預け、シェーラを軽く睨みつけてきた。

「お前は、ボケるにしてももう少しやりようがあるだろう。つっこみづれえんだよ」
「べつにボケてませんし、つっこみ待ちもしておりません。昨日の状況と所感を正確に伝えようとしただけであって」

 コンコン、とノックの音が割って入った。

(来客が重なるなんて、団長忙しそう。早々にお暇しよう)

 話を切り上げることに決めたシェーラであったが、退室を願い出るより先にバートラムが「入れ」とドアの向こうへと声を上げる。
 カチャ、と控えめな音を立ててドアを開けて姿を見せたのは、魔術師のローブ姿であるアーロン。フードは被っていなかった為、玲瓏たる美貌があらわになっていた。
 視線を執務机に向けると、その前に立つシェーラに目だけで甘く微笑みかけてくる。

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