魔術師団長に、娶られました。
 ……やっぱり本当なんだ……
 ……団長と騎士姫さま、結婚間近とか……
 ……もともとお付き合いなさっていたそうよ。ただ、あの仲の悪さでしょう。形の上では王命があったということにしたみたいだけど……
 ……敵同士みたいなものだったものね、忍ぶ恋か……

(そうか。周りの理解はそうなっているのか)

 いかに上からの命令があったとはいえ、よりにもよって自分とアーロンが結婚に踏み切るなど、周囲は理解し難いのだろう。
 それよりは、隠れて付き合っていたが、いつまでも表沙汰にできず、今回強引に周囲を巻き込んで公にしたと考えた方が自然なのかもしれない。
 魔術師団の数名は、半信半疑という顔で見ているが、中でも女性魔術師からの視線は本当にきつい。

「シェーラさんは、食堂ではそこまで大食漢のイメージがなかったですね。普段は、午後に響くから控えめにしていたとか?」

 肩を並べて戸口をくぐり、アーロンがのんびりと話し始める。

「結構、見られていたんですね、私」
「シェーラさんが考えているよりずっと、俺はシェーラさんに詳しいですよ」
「怖いです、団長。団長だから笑っていますけど、他の人に言われたら警戒します」
「俺は良いってこと? ありがとう。君の中に俺の居場所を作ってくれて、嬉しい」

 何を話しても耳をそばだてるようにして聞かれているだろう、シェーラは会話の加減を考えているのに、アーロンは気負いのない様子で好意を示してくる。

(私はこの方に好かれるようなことを、まだ何もしていないのに)

 食堂は天井が高く、長テーブルがいくつか平行に置かれている。
 席に着く前に配膳台の列に並び、トレイに食べ切れる量の食事を取るようになっているので、シェーラとアーロンも最後尾についた。
 並んで話せる位置を確保した上で、シェーラは小声で隣のアーロンに謝罪した。

「いろいろご迷惑をおかけしていると思います、すみません」
「何? 俺に思い当たる節はないけど、ここ数日、シェーラさんは何かあった?」

 少しだけ砕けた口調だった。
 その穏やかな声が心地よく、シェーラはほっと吐息をする。

「騎士団と魔術師団のこと……。私はこれまで何年も、素知らぬ顔をしすぎていたのではないかと。入団当初から仲が悪かったので、諦めの気持ちはありましたが。少なくとも、アーロン様に対しては誤解もありましたから」

 彼のひととなりに、もっと関心を持っていれば、自分にもできることがあったはずだ。
 ここ数日、考えるのはそのことばかり。
 アーロンは遠くに視線を投げかけて、低い声で答えた。

「誤解とは言いますが、仲が悪いこと自体は、根が深い問題です。『自分が知らない仕事』に理解を示すのは、難しいんですよ。あなたもご存知のように、魔術師は人数が少ないし、体力的に騎士より劣る者が大半です。だから、共同作戦に出ても後ろで大事に温存されて、ここぞという場面にだけ投入されます。それが、騎士団の中には面白くない者もいる。騎士たちに露払いをさせ、美味しいところをかすめとっていく。楽をしている、特別扱いされている、と」

 耳の痛い内容だった。
 騎士団の中にはそう言って、魔術師団を敵視する者が少なからずいる。

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