魔術師団長に、娶られました。
「騎士団は何かと肉体の鍛錬をしていますが、魔術師の皆さんは人前でそういった姿を見せることもないというのもありますね。それこそ『何をしているのかわからない』『生まれもった才能だけで』……」

 偉そうに。

(そういう批判を、私はこれまでよく耳にしていた。同調こそしなかったが、うまく収めることはできなかった……。魔術師というものを知らなすぎて、擁護もできなくて)

 どんなに理屈をつけても、それは結局才ある魔術師に対する嫉妬なのでは? と思うこともあったが、なればこそ扱いが非常に難しい。好き嫌いの問題は、理屈で片をつけにくいものだ。

「騎士団の一部の者たちは、魔術師に対して『自分たちに守られているのだから、感謝しろ』と頭ごなしに言います。入団当初は俺も若くて、そういう奴が気に入らなくて、片っ端から……えぇと、わからせた感じ? それが結局、『騎士団なんか必要ねえ』って態度で示したことになって、亀裂を決定的にしたのは知っている。この件で俺が悪いっていうのは、事実です」

 アーロンの告白は、シェーラとしても聞くのが辛いものがある。
 突出した才により、嫉妬でぐずぐず足を引っ張ろうとした者たちに、まとめて思い知らせてしまったのがアーロンというひとだ。
 彼はそれができてしまい、周囲も止められず、結果として「責任の所在」とされた。

「それができたのも、アーロン様の実力と、たゆまぬ努力あってのことです。アーロン様が意地を貫き前線に立ち続けたことで、救われた者も、楽をした者も、たくさんいます。それを、安全な場所にいる者が批判するのは卑怯なだけです。私達はあなたに、感謝をすべきだったのに、態度に示すこともなく……」

 アーロンを慕う魔術師団が、騎士団を心情的に好きになれないのは、当たり前だ。
 シェーラはいまも、どこかから睨まれている強い視線を感じる。団長のアーロンに近づく「ぽっと出」の自分はいかにもしたたかで、嫌な女だと思う。
 身を引くという発想は、なかったが。
 自信のなさに言い訳をつけて、謙虚と卑屈を取り違えた行動をとれば、混乱を招くだけ。
 未来への選択さえ、台無しにしてしまう。

「ここで全部終わらせるつもりで、少しずつ変えていけたら良いですね」
「茨の道だよ」
「わかっていて、私を指名してくれたのだと、考えています」

 ふっ、とシェーラは笑ってアーロンと視線を合わせる。
 そして、トレイを手に取り「今日は何食べようかなぁ」と配膳台に並んだ料理を見た。
 アーロンも小さく笑い、自分の分のトレイを手にすると「美味しそう、お腹空いていたな」と呟いてから、シェーラの耳元に顔を寄せて囁いた。
 
 それで、次の予定はいつにしますか? と。
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