魔術師団長に、娶られました。

長い道の先で交わる

 ――重い物なんて、持ったことはないだろう?
 ――魔術師って奴らは、危険な事は全部騎士団に任せて、美味しいところだけ取る。仕事をしているふりが本当に上手いな。

 天才、という触れ込みで魔術師団に入ったアーロンに対し、物理で殴りかかってくるような恐れ知らずはいなかった。
 だが、騎士団と共同戦線で野戦に出た際に取り囲まれて(はや)し立てられて、魔術師がどのように見られているか思い知った。
 実にくだらない。
 くだらないその言葉に、心の深い部分がごっそりと抉られた。

(得意分野に合わせて、適所適材で、必要な分業をしていると、なぜ理解しないのか。他人の仕事を軽視し、自分が一番大変だと思いこんでいるのは、なぜだ)

 思うだけならまだしも、遠慮なくぶつけてくる、とは。
 言い返さずに黙っているなど、若き日のアーロンには耐え難いことだった。

 とはいえ、「魔術師団が楽な仕事だと言うなら、お前たちもこちらに入団しろ」と挑発することはできない。魔術師になれるかどうかは、魔力があるかどうか、生まれた時点で明確に決まっている。魔力の無い者は、努力しても魔術師には絶対になれない。それがわかっていて「やってみろ」と言うのはフェアではない。
 アーロンは、理性で堪える。
 しかし、堪えない相手はここぞとばかりに好きなだけ言ってくる。「お前たちの分まで、俺たちが汗水流して働いているんだぜ」と。

 ――騎士団に行きます。俺は剣の訓練もしています。体力的に劣ることもありません。

 思い余って、アーロンは配置換えを願い出た。
 騎士団の中で実力を発揮し、わからせてやろうという気持ちがかすめたのだ。これは、ときの魔術師団長であった叔父に、「だめだ」と諭された。

 ――お前は「天才」だ。魔術の現場から離れてしまえば、魔術の発展はその分何年も遅れるだろう。さらに言えば、お前がどれだけフェアであろうとしても、魔力で肉体増強できるのは誰でも知っている。魔力を理解しない者ほど、その力を過信し、万能だと思いこんでいる。お前が一切それを使わず実力で勝ち上がろうとしても、「魔法を使っているから、強いんだ」と後ろ指をさされることになる。

 ――たしかに、魔力を持たない者、魔力を感じられない者に「使っていないことの証明」はできません。それでは、俺はどうすれば彼らとわかりあえるのですか。

 ――お前がどれだけ寄り添おうとしても、わかりあうことなど不可能。持つ者としてのお前に対し、相手が抱いてしまった感情は、お前にはどうすることもできないからだ。であれば、お前にできることは、自分を貫くことだけだ。

 決して折れるな。

 不平不満を口にすることに、なんの疑問を抱かぬ者に歩み寄ろうとも、問題は解決しない。
 相手は全体など見ていない、ただ目の前の気に入らない相手を引きずり下ろすことしか考えていない。
 お前が自分たちの側に落ちてくれば喜びこそすれ、そのことによって魔術師団・騎士団にどれほどの損害を生むかなんて、気にもしない。
 大局を見ない者を相手にするな。
 お前は「天才」だ。
 ひとと違う才能があるということは、それを最大限生かすことに正義があり、寄り道をして時間を浪費するなどあってはならない。


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