生物と、似つかわない双子の間で。
「由紀乃〜」
「あ、りっちゃん」
同じクラスの友達、須本律子。
「冷酷先生と会話した?」
「会話?」
「ほら、冷酷先生と会話したら成績が悪くなるっていうジンクスあるじゃん!」
「あぁ…それか」
そう、うちの高校には謎のジンクスがある。
坂本先生。通称、冷酷先生。
全学年共通で、彼と会話をすると理科の成績が悪くなると言われている。
「今は、そこ置いとけって言われたから。そこ?って聞き返したら、俺がそこって言ったらそこなんだよ。って言われたかな。これは会話になる?」
りっちゃんは腕を組んで、少し考えたのち言葉を発した。
「それは、会話じゃない!」
「良かったぁ」
ジンクスでの会話の定義は、こちらからの問いかけに対してきちんと返答されたかどうか。らしい。
例えば、さっきの例だと。
『そこ置いとけ』
『そこ?』
『あの棚の上』
などと、そこ?という問いに対して、的確な返答があった場合、それは会話をしたことになる。
ただ、先程のような『俺がそこって言ったらそこなんだよ』は、完全に相手を無視したひとりよがりな返答になる為、これは会話にならないらしい。
誰が決めたか知らないけれど、この学校で代々伝わる謎の定義。
「けどさ、由紀乃は塾に行っているからさ。仮に冷酷先生と会話しても、成績落ちないでしょ」
「…というか、そもそも私はジンクスとか信じていないけどね。坂本先生に何の力があるって言うの」
「……さぁ?」
「りっちゃんも適当だな…」
「だって、みんな言っているから!」
坂本先生。年齢不詳。
背が高く端正な顔立ちをしているのだが、愛想は無いし、口は悪いし。態度も悪く、生徒の扱いが雑。その上、自己中心的。
部活の顧問も坂本先生に関して『笑っているのを見たことがない』と言っていた。
「由紀乃はあれよね。塾の絢斗先生。その人のところにいる限り、理科系は余裕よね」
「それ、絢斗先生はマジで神だから。優しくて分かりやすい。個別指導塾だから余計にそう感じるのかもしれないけれど」
塾の絢斗先生。
…入塾した時からそう呼んでいるから、苗字は知らない。
その、絢斗先生が理科全般を教えてくれているのだけど、説明が凄く分かりやすい。
学校の生物のテストで良い点数が取れているが、それは坂本先生ではなく、絢斗先生のお陰だ。
「冷酷先生の授業、いらないじゃん。いいなぁ、私もその塾入りたい」
「絢斗先生は私の先生だから。入ってきても譲らないよ?」
そんな会話をりっちゃんとしていると、私たちの横を坂本先生が通った。
「……」
何も言わなかったけれど…。
「聞こえたかな?」
「……聞こえてもまぁ、問題無いと思うよ。坂本先生の授業、面白くないし。分かりにくいし」
「事実だもんね」
私たちは間違ったことを言ってはいない。
今日は塾の日。
絢斗先生に会えるのが、楽しみ。