EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

first impression


 ――母親みたいなんだよ、お前。


 たった今、四人目の彼氏に振られた。

 ――歴代の彼氏と、同じ言葉で。



 同棲していたアパートは、あたし名義だったけれど、浮気相手と何度も寝たベッドに平然と寝ていられるほど図太くはない。
 合い鍵を目の前の男に投げつけると、最低限の荷物をかき集め、夕闇の中を飛び出した。

 ――くそぅ!

 何で、いつもいつも、こうなっちゃうのよ!

 あたしは、スマホをバッグから取り出すと、唯一の友人の番号を選んで押そうとする。
 だが、時間を見れば、夜の七時半。
 たぶん、まだ、仕事中。
 サービス業の彼女。土曜日は、いつも遅番だ。
 そう思い、手を止め、スマホをバッグに戻して大きく息を吐く。


 ――……あたし、男運無いのかなぁ……。


 トボトボ、と、擬音が付きそうな足取りで、あてもなく歩く。
 実家は、電車とバスを乗り継ぎ、約三時間。
 元々、居心地が悪すぎて、高卒で飛び出すように就職したから、疎遠も疎遠で。
 正月だって帰っていないんだから、彼氏と別れたと言って、帰るつもりもない。

 途中、飲み屋街を通り抜け、大きな橋までたどり着くと、あたしは、欄干に寄りかかった。
 こんな時間、橋の歩道に人はあまりいない。
 あたしは、そのまま下を流れる、暗くて大きな川を見つめる。


 ――……これから、どうしよう……。



「ちょっと待て‼」


「え?」


 そんな思考をぶった切り、聞こえたのは低い声。
 次には、ぐい、と、腕を思い切り引かれ、思わずバランスを崩した。

 だけど、あっさりと、身体は太い腕に抱きとめられる。

「――え」

 見上げれば、あたしをあせったように見下ろしてる、優男(やさおとこ)
 どう見ても年下のそいつを、にらみ上げた。

「……離してよ。突然、何なの。アンタ、誰よ」

「そういう問題じゃない!飛び込むつもりなら――」

「え??」

 ……飛び込む?

 ――あたしが??

 目を丸くしたあたしに、ようやく自分が勘違いしている事に気づいたようだ。
 男は、慌てたように腕を離して言った。
「……今にも飛び込みそうな顔してたから――自殺志願者かと」
「人を勝手に殺さないでよ」
 あたしは、荷物を抱え直すと歩き出す。
 止まっていても、こんな事になるなら、あたしは一体、どこに行けばいいんだろう。

「お、おい、待てって!」

 男は、あたしを引き留めようと、再び腕をつかむ。
 だが、その手を、思い切り払いのけた。

「――うるさい、かまわないでよ。あたし、今、機嫌超最悪だから」

 そう言って、振り返らず歩き出す。
 後ろで何か言っているようだが、無視だ、無視!

「やだー、おにーさん、イケメンー!一緒に呑まないー?」

 すると、その男の声に交じって、明らかに酔っぱらっている女の声が聞こえた。
 どうやら、からまれているようだ。

 ――ラッキー!そのまま足止めしてて!

 心の中で酔っ払いのおねーさんに感謝し、あたしは、その隙に、早歩きで橋を渡り切った。


 ――まったく、何なの、今のは?
 新手のナンパ?

 ……でも、それにしては、真面目くさったヤツだったな。




 ――それが、そいつとの、最初の出会い。


 ――そして、まさか、二日後に、再び顔を合わせることになるとは、思う訳がなかった。
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