EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 ――あ、お昼途中だった。

 そんな間抜けなコトを思い浮かべたのは、ロッカールームに逃げ込んでからだ。
 ――まあ、仕方ない。
 半分くらいは食べているから、そこそこ()つだろう。
 女性の平均身長よりも少し大きいので――まあ、体重は触れないにしても――食事はちゃんと取らないと、痛い目に遭うのは経験済みだ。
 二人目の彼の時に、一度、金欠で栄養不足に陥り、危うく入院するところで、その時も、舞子の世話になってしまった。
 一週間ほど泊めてもらい、食事まで作ってもらったのだ。

 あたしは、自分のロッカーからスマホを取り出して、誰もいないのを確認すると、その場で賃貸住宅サイトを開いて検索を始める。
 だが、やっぱり、めぼしいところは埋まっているか、予算オーバーかのどちらか。
 いよいよ、期限が迫っているのであせってしまうが、どこを見ても、見つからなかった。

 ――……もう、しばらく、ネカフェにでも行くか。

 ホテルよりは安くつくはずだ。
 駅前に一軒と、ちょっと外れたところに一軒。
 後は、国道沿いに一軒あったはずだから、一日ごとに回れば、少なくとも一週間くらいは何とかなるだろう。
 あたしは、記憶をたどって計画を練る。

 けれど、まずは、アパートの解約と、荷物を全部回収する。
 コインロッカーは無理だろから――貸倉庫か。

 そうこう考えているうちに、午後の始業時間が迫ってきて、あたしは、急いでロッカールームから出た。

 午後からも、部長は精力的に動いていた。
 どうやら、本当に仕事はできる人間のようだ。
 ――まあ、部長に抜擢されるくらいだから、当然か。
 あたしは、そんな思考を頭の隅に追いやり、パソコン画面を見つめる。
 福利厚生の利用率向上のための、改善書。
 前の部長が、上から突かれたらしく、あたしにそれを丸投げして行ったのだ。
 総務一筋、定年まで働いた上司は、中々、要領が良く、あたし達に仕事を丸投げすることもしばしばだったので、今さら怒る気力も無く、言われるままに引き受けた。

 ――って言っても、前も同じようなヤツ、書いたわよね……。

 コピペまではいかずとも、ちょっと書き方を変えれば良いだろう。
 どうせ、内容は覚えてないんだろうから。

 経験が長いと、そういう悪知恵だけは働くようになってしまった。
 でも、頑張ったところで、正当に評価された記憶も無いので、良しとして欲しいものだわ。

 あたしは、過去のファイルから改善書を探しあてると、ひとまず書式をコピーし、日付などを変える。
 そして、内容を確認すると、微調整してみた。
 ――うん、やっぱり、前も同じようなコトで改善書出していたわ。
 それをプリントアウトすると、もう一度確認し、押印。
 係長に提出すれば、あたしの仕事はそこで終了。
 そう思い、係長の席を見やれば、姿が見えない。
 あたしは、壁の行動予定表を見やる。
 主任以上の役付きは、そこに設置してあるホワイトボードに、当日の予定を書き込んでいるのだ。
 すると、一課、二課係長と部長はともに”本部会議”という名の経営会議に出ている。
 ウチは、月一で社長以下、全支社係長クラスまでが招集され、会議が行われる。
 その本部会議は、かなりの人間が集まるせいか、まともな時間に終了した試しが無いそうだ。
 以前、係長がぼやいていたのを思い出す。
 そして、終了後は、ほぼ毎回懇親会という名の飲み会が行われるらしい。
 
 ――というコトは、終業時間過ぎても、帰って来ないか。

 あたしは、係長の机の上に改善書を置くと、お願いします、と、付箋をつけてペーパーウエイトを置いた。

 予想通り、終業のベルが鳴っても、係長達も部長も姿を見せないので、あたし達平社員はそのまま仕事を終わらせて、各々ロッカールームへ向かって行く。
 帰り支度をしながら、あたしは、スマホを確認したが、誰からも連絡は無い。

 ――もちろん、アイツからも。

 そう思うと、まだ胸は痛むし、泣きたくなる。
 
 ――でも、やっぱり、一度は帰らないと。

 あたしは、唇をきつくかみしめ、会社を出た。
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