EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 再びマンションに戻り、あたしは、部屋でスーツケースの荷ほどきをする。
 今のところ、この部屋は完全に空き部屋で、家具は何も無い。
 ひとまずハンガーだけ数本借りると、明日の服を吊り下げ、下着類は入れたままにする。
 その間に、部長には先にお風呂に入ってもらう事で、納得してもらった。
 そして、数十分後、ドアがノックされ、

「美里、上がったが――大丈夫か?」

「あっ、ハッ……ハイッ!」

 ――入って来た風呂上りの部長は、正直、目の毒。

 Tシャツにハーフパンツ。ラフな格好ではあるが、(さま)になっている。
 まだ、乾かしていないのか、その真っ直ぐな黒髪は濡れそぼっていた。
 正に、水も滴る何とやら。何をしても、眼福状態。
 けれど、次に視界に入った落ちていく水滴に、思わず手を伸ばして、本人が首にかけていたタオルで拭いてしまった。
「……おい」
 一拍置いて、不機嫌な低い声。
 その声音に、自分がやらかしたコトに気がつき、急いで手を離すと、視線を逸らす。
「あ、いえ、あの……風邪、引きますよ……?」
「それくらい、わかってる。いつも、こんなだ。風邪など引いた記憶は無い」
 言いながら、自分もタオルで髪を雑に拭く。
「――こういうものにも、反応するのか、お前は」
 一瞬、また、母親と言われるのかと肩を上げる。
 だが、部長は口元を上げただけだった。
「美里?」
「いえ、じ、じゃあ、あたしもお借りしますのでっ……」
「ああ。使い方は――」
「たぶん、見ればわかりますっ!部長はお先に休んでください!」
 あたしは、うつむいたまま、部長を手で部屋の外へ追いやろうとした。
 ――ダメだ、もう、キャパオーバーも良いトコ。
「じゃあ、先に休む。――おやすみ」
「――……っ……‼‼」
 だが、低い声で耳元でそう囁かれ、あたしは、その場にへたり込んでしまった。
 その張本人は、素知らぬ顔で部屋を後にする。

 ――……わかってて、やってるんじゃないでしょうね⁉

 ていうか、オジサンって言ったから、仕返し⁉

 耳の奥が、じんじんとする。
 身体中が沸騰しそう。

 ――ああ、もう、何なのよ、コレ‼

 あたしは、しばらくその場で悶え続け、ようやく我に返ると、そそくさとお風呂に向かったのだった。
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