EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 ロッカールームで支度を終え、いつも小坂主任と一緒にいる三人と一緒に、近間の居酒屋へ向かった。
 おしゃれなレストランとかじゃなくて、良かった。
 今の自分の姿を見やり、思わずホッとする。
 無難なシャツに、黒のパンツスタイルは、毎日ほとんど変わらない。
 舞子に言わせれば、もったいないらしいが、何がもったいないのか未だにわからない。
 それに、服にかけるお金など無いも等しいので、シンプルなものを数年着回し続けるしかないのだ。
 よく、会社の飲み会などで使われる居酒屋のドアをくぐり、先頭を行く主任を見やる。
 テンションが上がってきたのか、彼女は、あたしを振り返ると、笑顔で言った。
「せっかくだし、あなたにも、良い人見つかればいいわよね」

 ――余計なお世話だ。
 あたしは、あたしを必要としてくれる人と出会いたいだけなんだから。

 以前付き合っていた男たちは、全部合コンで出会ったが、それは同期の付き合いや、数合わせで半ば無理矢理連れて行かれたもので、あたしが望んだものではない。
 でも、その時に声をかけられ、そのまま交際に発展したのだから、決してバカにできたものじゃないけれど――。
 その後の事を思い出してしまい、あたしは、軽く首を振った。
 まあ、とにかく適当に合わせてご飯食べて、すぐに帰ればいい。
 主任にからまれる前に、早く逃げたいのだ。

「あ、お待たせしましたぁ!」

 主任の一オクターブ高い声に、我に返る。
 全員で軽く仕切られた掘りごたつの席に座って行くが、あたしは立ったまま目を丸くしてしまった。

「――し、白山さん」

「……た、高根、さん……?」

 目の前にいたのは、昨日会ったばかりの、ライフプレジャー社、企画の高根さんだった。


 各々、注文した飲み物が来ると、小坂主任は高々とグラスを持ち上げた。

「じゃあ、みなさん、今週もお疲れ様でしたぁ!」

 主任の音頭で始まると、それぞれがビールなどを口にしながら、雑談を始める。
 あたしは、ちびちびとビールを口にしながら、目の前のサラダからつついていく。
 コースなのか、次から次へと皿が運ばれ、あっという間にテーブルの上はいっぱいになってしまった。
 ――ああ、もう。
 あたしは、半ばあきれながらも、皿をまとめたり終わったものを下げたりする。
 主任は、目の前の男性と気が合ったのか、さっそく席を移動して話していた。
 他の子たちも、にこやかに会話を楽しんでいるのを見やると、あたしは何で来たんだろうかと思ってしまった。
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