EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「……離してください」
「いい加減、事情を話してくれ」
「朝日さんには、関係ありません」
 ――これは、あたしの事情であって、アンタには迷惑にしかならない。
 それに、話したところで、どうにもなる訳じゃない。
 けれど、彼の手から逃れようとするが、びくともしなかった。

「――離してってば!」

 あたしが、もがこうとするよりも先に、朝日さんはそのまま掴んだ腕を力強く引いた。
 その勢いに負けて、彼の胸に飛び込む形になってしまう。
 すると、そのまま耳元から、低い声が脳内に届く。

「――誰が離すか、バカ」

「……んっ……!」

 あたしは思わず肩をすくめる。
 けれど、すぐに朝日さんをにらみ上げた。
 ――わかって、やってるわよね!
 そんなあたしに、彼は口づけてくる。
 優しく――そっと、うかがうように。
 そして、徐々に深くなるそれに、どんどん浮遊感を感じ、あたしは足の力が抜けそうになる。
 思わず彼にしがみつくと、唇が離された。
 あたしは、荒くなった呼吸を整えようとする。
 ――なのに。

「――きゃあっ……んっ……‼」

 今度は左の耳たぶを甘噛みされ、すべてが一気に吹き飛んだ。

「――やっぱり、弱いな」

「――……あっ……バカ……ッ……!」

 あたしの抗議も、軽く流し、朝日さんは少しだけ機嫌を直す。
 そして、そのまま、あたしがギブアップするまで両耳を攻め続け、ようやく解放されたと思ったら、そのまま抱き上げられ、彼の部屋に連れて行かれる。
 あたしは、息が上がったまま、放心状態で朝日さんを見上げた。

 ――……あれ……?
 ――……コレって、しちゃう流れ……?

 けれど、朝日さんは、あたしをベッドに座らせると、自分はパソコンデスクのイスを持って来て、正面に腰を下ろした。
「……あの……?」
「――もう、お前はこっち使っておけ。明日にでも、ベッド見に行くからな」
「え、いえ、でも」
「でも、は、もう聞かない。放っておいたら、お前、意地でもソファで寝続けるだろう」
 何だか、あたしの扱いをわかってきたようで、腹立たしい気がする。
「……じ、じゃあ、あたしが買ってきます」
「――却下」
「は⁉」
「オレの家の家具だ。オレが買う」
「使うのは、あたしじゃないですか」
 引き下がらないあたしに、朝日さんは眉を寄せた。
「――だから、お前は……」
「明日、あたしが一人で行ってきますから」
「オレも行く。大体、大きさとか、わかるのか」
 そう言われ、口ごもる。
 それもそうだけど。でも、朝日さんに買わせるのは違うんじゃない?
 あたしは、視線を逸らして続ける。
「……だって、そしたら、デ、デートになっちゃいます」
「――……え、ああ……デート、か」
 その返事に違和感を覚え、チラリと朝日さんを見やる。
 すると、どうも顔が赤い。

 ――……ん?

「……何、赤くなってるんですか。別に初めてでもないでしょうに」

「……うるさい」

 朝日さんは、視線を逸らすと、ふてくされたように言う。

「――……初めてだ」

「……は??」

 あたしは、これでもかと目を見開いてしまった。
 何、今の。
 空耳?

 ――こんなイケメンが、デートした事無いとか、ありえないでしょうが。

「……言っておくが……オレは、先を考えない付き合いをする気は無い。……たまたま、そういう女に出会っていないだけだ」

「……え」

 ちょっと待って。
 それって――誰とも付き合った事が無いってコト……??

 え、あれ、まさか――。

 あたしは、まじまじと朝日さんを見つめ、そして、ポロリと口からこぼしてしまった。

「――……もしかして……童貞……?」

「バッ……‼‼」

 真っ赤になった彼は、あたしの口を手でふさぐ。
 その反応は、完全に認めているという事で。

 ――うわ、何それ。

 こんな、よりどりみどりな見た目のクセに――。

「……二度と言うな。……ただ、機会が無かっただけだ」

 低く抑えた声で言われ、あたしは、放心状態のまま、コクコクとうなづいた。
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