EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
あたしは、差し出された湯呑を手に取りお礼を言って、口にした。
温かいそれに、少しだけ気分が落ち着く。
「――とりあえず、ボクの事は気にしないで」
「え、いえ、すぐに帰りますので」
「良いから。このまま美里ちゃん放り出したら、ボクが朝日に怒られるからさ」
――ああ、朝日さんに電話しちゃったか。
あたしは、気まずくなり、新井さんを見やる。
「……でも、お帰りになるところだったんじゃ……」
「ああ、今、奥さんに遅くなるって言っておいたから。一応、事情知ってるから大丈夫だよ」
あたしは、ホッとしてうなづく。
――だが、一瞬で、目を見開いてしまった。
「お、”奥さん”⁉」
まさか、既婚者だったとは。
朝日さんが独身だったから、てっきり、同じだと思ってた。
でも、それじゃあ、いくら事情を知ってると言っても、いい気分はしないはず。
ましてや、こんな夜に二人きりじゃ、誤解されてしまうじゃない!
あたしは、慌ててお茶をあおるように飲むと、立ち上がった。
「美里ちゃん?」
「ダメです!帰ってください!あたしは一人で平気ですから!」
ごちそうさまでした、と、頭を下げ、あたしは、新井不動産の裏口から飛び出すように走り出す。
そのまま駅前を迂回し、線路に向かって歩き出すと、スマホが振動した。
――朝日さんからの着信だ。
あたしは、迷ったがスルーする。
申し訳ないけれど、今は寿和をやり過ごす事が優先だ。
たぶん、あと一時間も待っていないだろう。
――……何で、あたしは、元カレにストーカーされなきゃいけないのよ。
思わず、そのままため息をついてしまう。
あと三週間ほどで、あのアパートも引き払わなきゃいけない。
その時、寿和に行き場所が無かったら――そう思うと、ゾッとする。
別れた時点で他人のはず。
けれど――一度でも付き合っていたと思うと、そのまま知らんふりもできないのも確か。
どうにか、アイツに自活できるようになってもらって――いや、その前に職を探してもらわなきゃ。
走ったせいか、若干アルコールの回った頭でグルグルと考えてはみるが、何も解決策など浮かぶはずもなく。
――でも、こんな事、朝日さんに相談できるはずもない。
あたしは、結論の出ないまま、見えてきた線路を渡り、駅裏にそびえたつマンションに向かって歩き続ける。
そして、ようやく入口の明かりが見えてきた時、そこに見えた人影に、思わず足を止めた。
「――……あ、あさ……ひ、さん」
「――遅かったな」
若干、気圧の下がった低い声で言われ、あたしは肩をすくめる。
すると、朝日さんは、スタスタと目の前にやって来て、問答無用とばかりに、あたしの手を取った。
そして、当然のように指を絡める。
「あ、朝日さん?」
「――……巽から連絡があったんだが」
「え、あ、えっと……」
どうにかごまかそうとしたが、朝日さんは、それを許さないとばかりに繋いでいた手に力を込めた。
「――さすがに、放っておけないからな」
「……すみません……」
「何がだ」
「……ご心配をおかけしました」
朝日さんは、眉を寄せて無言になった。
そして、あたしを引き連れたまま自動ドアをくぐり、エレベーターまで向かうと、”上”のボタンを押す。
数秒で扉が開き、あたしは彼に引きずられるように中に入った。
ドアが閉まり、数十秒。
あっという間に最上階に到着すると、開いた扉から先に朝日さんが下りた。
その背は、不機嫌さを隠しておらず、あたしは、思わず立ち止まってしまった。
「――美里?」
「……いえ、あの……」
口ごもるあたしを、朝日さんはのぞき込んでくる。
その端正な顔が至近距離に見え、あたしは反射的に後ずさった。
「……おい、逃げるなよ」
「にっ……逃げてませんよ!」
――アンタの顔が心臓に悪いだけよ!いい加減、その威力を自覚しろ!
心の中でそうボヤくが、口には出さない。
朝日さんは眉を寄せたまま、後ずさった分、距離を詰めてくる。
「――……あの、もう、休みますねっ……。明日は、朝ごはん、あたし作りますからっ……」
「美里」
どうにか、彼の脇をすり抜けて、あたしは部屋に向かおうとするが、すぐに腕を掴まれて止められた。
温かいそれに、少しだけ気分が落ち着く。
「――とりあえず、ボクの事は気にしないで」
「え、いえ、すぐに帰りますので」
「良いから。このまま美里ちゃん放り出したら、ボクが朝日に怒られるからさ」
――ああ、朝日さんに電話しちゃったか。
あたしは、気まずくなり、新井さんを見やる。
「……でも、お帰りになるところだったんじゃ……」
「ああ、今、奥さんに遅くなるって言っておいたから。一応、事情知ってるから大丈夫だよ」
あたしは、ホッとしてうなづく。
――だが、一瞬で、目を見開いてしまった。
「お、”奥さん”⁉」
まさか、既婚者だったとは。
朝日さんが独身だったから、てっきり、同じだと思ってた。
でも、それじゃあ、いくら事情を知ってると言っても、いい気分はしないはず。
ましてや、こんな夜に二人きりじゃ、誤解されてしまうじゃない!
あたしは、慌ててお茶をあおるように飲むと、立ち上がった。
「美里ちゃん?」
「ダメです!帰ってください!あたしは一人で平気ですから!」
ごちそうさまでした、と、頭を下げ、あたしは、新井不動産の裏口から飛び出すように走り出す。
そのまま駅前を迂回し、線路に向かって歩き出すと、スマホが振動した。
――朝日さんからの着信だ。
あたしは、迷ったがスルーする。
申し訳ないけれど、今は寿和をやり過ごす事が優先だ。
たぶん、あと一時間も待っていないだろう。
――……何で、あたしは、元カレにストーカーされなきゃいけないのよ。
思わず、そのままため息をついてしまう。
あと三週間ほどで、あのアパートも引き払わなきゃいけない。
その時、寿和に行き場所が無かったら――そう思うと、ゾッとする。
別れた時点で他人のはず。
けれど――一度でも付き合っていたと思うと、そのまま知らんふりもできないのも確か。
どうにか、アイツに自活できるようになってもらって――いや、その前に職を探してもらわなきゃ。
走ったせいか、若干アルコールの回った頭でグルグルと考えてはみるが、何も解決策など浮かぶはずもなく。
――でも、こんな事、朝日さんに相談できるはずもない。
あたしは、結論の出ないまま、見えてきた線路を渡り、駅裏にそびえたつマンションに向かって歩き続ける。
そして、ようやく入口の明かりが見えてきた時、そこに見えた人影に、思わず足を止めた。
「――……あ、あさ……ひ、さん」
「――遅かったな」
若干、気圧の下がった低い声で言われ、あたしは肩をすくめる。
すると、朝日さんは、スタスタと目の前にやって来て、問答無用とばかりに、あたしの手を取った。
そして、当然のように指を絡める。
「あ、朝日さん?」
「――……巽から連絡があったんだが」
「え、あ、えっと……」
どうにかごまかそうとしたが、朝日さんは、それを許さないとばかりに繋いでいた手に力を込めた。
「――さすがに、放っておけないからな」
「……すみません……」
「何がだ」
「……ご心配をおかけしました」
朝日さんは、眉を寄せて無言になった。
そして、あたしを引き連れたまま自動ドアをくぐり、エレベーターまで向かうと、”上”のボタンを押す。
数秒で扉が開き、あたしは彼に引きずられるように中に入った。
ドアが閉まり、数十秒。
あっという間に最上階に到着すると、開いた扉から先に朝日さんが下りた。
その背は、不機嫌さを隠しておらず、あたしは、思わず立ち止まってしまった。
「――美里?」
「……いえ、あの……」
口ごもるあたしを、朝日さんはのぞき込んでくる。
その端正な顔が至近距離に見え、あたしは反射的に後ずさった。
「……おい、逃げるなよ」
「にっ……逃げてませんよ!」
――アンタの顔が心臓に悪いだけよ!いい加減、その威力を自覚しろ!
心の中でそうボヤくが、口には出さない。
朝日さんは眉を寄せたまま、後ずさった分、距離を詰めてくる。
「――……あの、もう、休みますねっ……。明日は、朝ごはん、あたし作りますからっ……」
「美里」
どうにか、彼の脇をすり抜けて、あたしは部屋に向かおうとするが、すぐに腕を掴まれて止められた。