婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
 もう私達は、セオドア・セブンじゃない。

 本来なら来年テディが臣籍降下してエリィと結婚する前に、ライオネル、カイル、アレンの3人は第3王子の側近ではなくなり、王宮の官吏や騎士として新しい職に就く予定でした。

 ところが、例の横領発覚で、彼等は既にテディの側近を解かれてしまった……


 王国では要職の世襲制はなくなっていて、いくらライオネルのお父様が現職の宰相閣下であっても、ライオネル自身はひとつずつ王城文官の昇進試験を受けなくてはなりません。

 それは文官だけではなく、ウチの父は騎士団上層部に位置していますが、嫡男であるアレンは騎士ではなく、文官の道を選びました。


 ふたりは来年に向けて、上級文官試験の準備を始めていました。
 ライオネルは余裕、アレンはどうかな?

 カイルもお父様は騎士団トップの統合団長様ですが、嫡男の彼は一番下からの入団です。




 もう私達は、セオドア・セブンじゃない。
 あの夜、テディが挨拶したように。

 それぞれの現実で、それぞれの場所で、一生懸命力を尽くす。
 夢を見ても、夢に生きちゃダメなのです。



「秋になったら、必ず帰ると約束して?」

 私を抱き締めたままエリィが囁きました。
 ……貴女はきっと何度も後悔したね。


 ふたりで張り切って、ルーカスにざまぁしてやる!なんて盛り上がったこと。
 結果、公女で王子の婚約者の貴女を責める声は聞こえなくて、見た目も悪役な私だけが晒されて。


 貴女は絶対苦しんだね。
 責任を問われないのは、楽なようで苦しいね。



 お互いに次があるのなら、この苦しみを忘れないでいよう。
 何かを起こす時、少し立ち止まって考えよう。



「秋になっても帰りづらかったら迎えに行ってやる」


 大丈夫だよ、カイル。
 私は子犬のグレートマグナムじゃないからね。
 帰りたくなったら、勝手に帰るよ。
 ……帰りたくなったら、ね。



 あーぁ、やだなぁ。
 行くと決めて、こうして送別会まで開いて貰っているのにな。
 皆と居ると、もう行きたくなくなってくる。




「エヴァ、エヴァンジェリン・マッカラム!」


 いきなり部屋の扉が開いて。
 遅刻してきたライオネルが、らしくなく叫びながら入ってきて。
 ずんずん私の前に進んできて。



「君に結婚を申し込むよ!
 だから、行くな!」


 え? どういうこと?

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