双子の熱 私の微熱

双子と私

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「海外単身赴任中のパパから届いた誕生日プレゼントが双子のボディーガードって……そんな少女漫画みたいな話ってある!?」

「だって、本当なんだもん……」

 放課後の教室で友だちに話してみても、自分でも自分の虚言壁を疑ってしまう有様だった。でも、本当。女の子の一人暮らしは危ないからって……

「あのイケメン双子がねぇ……羨ましいの言葉しか出てこない」

 友だちはそう言うし、私も他人事だったらそうとしか思えなかったと思う。でも、自分の身に降りかかるってなると……

「お待たせ~!」

 噂をすれば影。
 転校してきたばかりで職員室に呼ばれていた双子が教室に帰ってきた。
 にこやかな笑顔で入ってきたのが双子の弟の方、コウヤくん。海外で出会った父に私の写真を見せられて一目惚れしたとかパパに婚約者として認めてもらってるとか言ってるけど、正直信じられないしなんだか胡散臭い。

「帰るぞ」

 コウヤくんに続いて入ってきたマスクの方がお兄さんのサキトくん。体が弱いのか四六時中マスクでよく咳をしている。いつも機嫌が悪そうで、何を考えてるかわからなくてちょっと苦手。
 お祖母さんがギリシャ人とかで二人とも日本人離れした綺麗な顔をしている。

「コウヤくん、サキトくん! 今日も送り迎え? お疲れ様~」

「うん。今日も、ボディーガード」

 ちょっと舌足らずな日本語で、コウヤくんがニコニコと友だちに応える。

「行くぞ」

 サキトくんに促されて、私は友だちに挨拶をして荷物を手に取り二人についていく。

「羨ましいなぁ~」

 教室を出ると、友だちのそんな声が後ろから聞こえてきた。
 ボディーガード二人に守られてるっていうより、私は護送中の犯人の気分だった。



「毎日毎日、いいよ。たまには友達とも帰りたいし……」

 学校を出て、長身の双子に左右を固められながら歩くと圧迫感。

「だ~め! 僕らと帰るの。女の子だけじゃ、危ないでしょ」

 さりげなくコウヤくんが私の手を握って自分の方に引き寄せて、子どもを叱るみたいに綺麗な顔を近づけてくるからどぎまぎしてしまう。

「なにかあったら、おまえの父親に顔向けできんだろう。バカなこと言うな」

 サキトくんは、拳で私の頭を小突いてきた。

「痛い!」

 拳を強く押し当てられて、骨が頭蓋骨にめり込ませようとしてるみたいだった。

「兄さん、いじめちゃダメ!」

 コウヤくんが私とサキトくんの間に入ってかばってくれるけど、サキトくんは反省する様子もなくてマスクの下で笑っているのがありありと分かる。

「いじめてないだろ。なぁ?」

 私に同意を求めてくるけど、同意なんて出来るはずがなかった。
 駅に続く道端で立ち止まってやり取りしていると、他の通行人が何事かと見てくる。痴話げんか? みたいな話し声も耳に入ってきて、恥ずかしくなってしまう。

「いいから、早く帰ろう」

「はーい」

 コウヤくんの背中を押してそう言うと、ニコニコ手を握られてそのまま歩くことになってしまう。
 恥ずかしいけど向けられる好意を無下にできない私の背中に、サキトくんのため息が聞こえてきた。続いて、咳き込む声も。

「大丈夫?」

 振り返って様子をうかがうと、気にするなといった風に手を振られてしまう。そんな仕草をしている間も咳は止まらない。
 咳き込むのは体質で感染するようなものじゃないって前に言ってたけど、そのうち吐血でもするんじゃないかっていうぐらい激しい咳で、私は心配になってしまう。

「最近、朝晩寒いし風邪引かないでよ~うつったりしたら、大変!」

 兄の心配をしているのか私の心配をしているのかわからない事をコウヤくんが言う。

「今日は温かいスープでも作ろうか。具材はなにがいい?」

 コウヤくんが、今日の晩ごはんのリクエストを聞いてくる。

「豆」

「兄さんには聞いてない!」

 学校のみんなは送り迎えだけのボディーガードだと思っているみたいだけど、実はこの双子……私の家に越してきている。
 二十四時間ボディーガードに加えて、コウヤくんは趣味みたいなものだからとごはんも作ってくれていた。

「なにがいい?」

 眉間にシワを寄せているサキトくんを気にしないで、コウヤくんが私に笑顔を向けてくる。

「ええっと……卵とソーセージかな」
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