冷酷な『黒豚伯爵』に見そめられました 〜双子の美姫の逆転契約婚〜
「伯爵家、と言っても。《彼》が伯爵位を継いでから戦果の一つも上げられずにいるのは知られた話、まさに落ちぶれ寸前だ。そんな家に大切なご令嬢を嫁がせると?」
お父様の隣でマリウスがニヤニヤと厭な笑みを浮かべている。爽やかな純白の騎士服に身を包んだ美丈夫の彼は王宮騎士団の隊長で、私の妹アイリーンを溺愛する婚約者だ。
「問題はないさ、むしろ願ったり叶ったりじゃないか。サラもきっと喜んでいるよ」
お父様がキャビネットを見やる。
視線の先には在りし日のお母様が額縁の中で穏やかに微笑んでいた。
ぐ、と奥歯を噛みしめる。
そんなはずはない——あの優しかったサラお母様ならきっと反対してくれたはずだもの。
お母様はとても愛情深い人だった。
《あんなこと》があった後も……お父様とアイリーンとは違って、変わらずに私を愛してくれていた。
そんなお母様も私が十二歳の時に流行病で他界してしまったけれど。
「だってお父様、あの『黒豚』よ……?! お姉様と並んでる姿を想像したら可笑しくて!」
狂ったように笑い続ける妹の隣で、私はぎゅうっと縮まりそうになる胸に手をあてた。
心配なのは《伯爵の容姿》ではない。
豚のように肉付いたその体型のせいで『黒豚伯爵』と呼ばれる彼……アルガルド様には《恐ろしい噂》があるのを私は知っていた。
お父様の隣でマリウスがニヤニヤと厭な笑みを浮かべている。爽やかな純白の騎士服に身を包んだ美丈夫の彼は王宮騎士団の隊長で、私の妹アイリーンを溺愛する婚約者だ。
「問題はないさ、むしろ願ったり叶ったりじゃないか。サラもきっと喜んでいるよ」
お父様がキャビネットを見やる。
視線の先には在りし日のお母様が額縁の中で穏やかに微笑んでいた。
ぐ、と奥歯を噛みしめる。
そんなはずはない——あの優しかったサラお母様ならきっと反対してくれたはずだもの。
お母様はとても愛情深い人だった。
《あんなこと》があった後も……お父様とアイリーンとは違って、変わらずに私を愛してくれていた。
そんなお母様も私が十二歳の時に流行病で他界してしまったけれど。
「だってお父様、あの『黒豚』よ……?! お姉様と並んでる姿を想像したら可笑しくて!」
狂ったように笑い続ける妹の隣で、私はぎゅうっと縮まりそうになる胸に手をあてた。
心配なのは《伯爵の容姿》ではない。
豚のように肉付いたその体型のせいで『黒豚伯爵』と呼ばれる彼……アルガルド様には《恐ろしい噂》があるのを私は知っていた。