契約結婚のススメ〜雇われ妻のはずが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています〜
「――ご実家からはなんと?」

 彼の机に皿を置きながら、リーゼは自然な風を装って話題を振ってみた。予想はついているけれど、あくまで世間話の一環として。
 
 するとランドルフの口から忌々しげな舌打ちが飛び出した。

「結婚したい相手がいるなら、来週までに連れてこい、と。いなければ、勝手に見繕ってくれるらしい。まったく、余計なことを……」
「ら、来週、ですか?」

 皮肉っぽくのたまうランドルフ。
 随分と急な話にリーゼは目を丸くした。
 結婚の催促であることは予想がついていたけれど、まさかそんな急展開になるなんて。心の準備ができていなくて、リーゼの背筋に冷や汗が流れる。
 
「あの、お相手は……?」
「いるわけないだろう。俺は結婚などしない」
 
 ランドルフはガタリと音を立てて椅子から立ち上がると、机に立てかけていた剣を腰に差し、まるで戦場にでも馳せ参じるような面持ちでリーゼを見た。

「俺は屋敷に戻って、こんな馬鹿げた話を持ち出した母を説得しなければならなくなった。スターリング、後は頼んだ」
「は、はあ……でも、その、剣は……使ったりしないですよね……?」

 騎士は帯剣が基本。しかし勤務時間外はその限りではない。
 眼光を鋭くするランドルフへ、リーゼは半ば牽制する気持ちで訊ねたのだが。

「……ないとは言い切れないな。家族といえど、時には武力を行使する必要もある」
「えっ?!ま、待ってください!それはいけません!!」

 とんでもないことを言い出すランドルフにの行く手を遮るようにリーゼが両手を広げると、ランドルフはムッツリと顔をしかめて、剣を再び机に立てかけた。
 ドサリと乱暴に椅子へ腰掛け、また大きくため息をついている。
 
「…………冗談だ」

(…………絶対嘘だ)

 リーゼがそう心の中で呟いたのは言うまでもない。
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