【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「いえ、私は大丈夫です。少しびっくりはしましたけど。それに……アナスタシア様が納得できない気持ちもわかりますし」

 アナスタシアは恐らく幼い頃からランドルフを慕っていたのだろう。それを、ぽっと出の女――しかも地味で華やかさの欠片もない行き遅れ――が突然横から掻っ攫っていったのだ。得心できないのも無理はない。……その怒りを当人にぶつけてくるのはどうかと思うが。

 リーゼがほろ苦く微笑むと、ランドルフは怪訝そうに眉をひそめ、それから慰めるようにリーゼの頭部を手で撫でた。

「アナスタシアの言ったことは全くの戯言だ。君が気にする必要はない。それに……俺自身は、君と結婚できたことを僥倖だと思っている」
「え……」

 それは、どういう意味……?と、思わず訊ねそうになる。まるでリーゼ自身を求めていたかのような口ぶりだ。ふわりと心が浮き立つ。
 
 けれども、ランドルフの目を見てリーゼはすぐにこの結婚の意味を思い出した。
 彼の瞳に熱情は灯っていない。純粋に、受難を避けられたということを喜んでいるのだ。
 音を立てて歓びが萎んでいく。昂揚しかけた己の心を戒めるように、リーゼは唇を噛んだ。

(勘違いしちゃダメ。これは契約結婚だもの。ただ私の存在が団長にとって都合がよかったっていうだけの話よ)

 ランドルフはこの結婚によって社会的地位を確固たるものにし、リーゼもまた望まぬ結婚を避けられた。
 だからこの結婚は、リーゼにとっても僥倖のはずだ。たとえひどく義務的なものであったとしても。
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