佐々木くんは見えるらしい
「違う」

 佐々木くんが左右に首を振って、続ける。

「僕は本当は君に、助けられてるって言ってもらえてうれしかったんだ。はじめて気味が悪いって目で見られなかったことも、普通に接してくれたことも……。――木村優希、僕を友人だと言ってくれて、ありがとう」

 佐々木くんが笑った……!

 しかも、私の名前、はじめて言ってくれた……!

 あわあわしちゃって、なにも言葉が出てこないよっ。

「なんて顔をしてるんだ、君は」

 かっこいいさわやかな笑顔を引っ込めて、佐々木くんはとても嫌そうな顔で私を見た。

「だって……!」

 あー、まだなにも出てこない。

 ……あ、私、佐々木くんに聞いておかなきゃいけないことがあるんだった。

「ねぇ、佐々木くん、新学期からどうするの?」

 きっと、佐々木くんの用事はこれでぜんぶ終わったんだよね?

 終わってしまったから、もうここに居る必要はないって佐々木くんは考えるかもしれない。

 誰も知らない他の学校でやり直す?

 それとも、中学校まで学校には行かない?

 聞きたいけど、そこまでは聞けない。

「わからない。すこし考えてみる」

 返ってきたのは静かな声。

 また黙ってしまいそうになる。

 でも、佐々木くんは無言にはならなかった。

「――祭り、まわるか……」
「うんっ」

 そう言ってくれただけで、うれしくなっちゃったり。

「絵日記の最後のページにはこの祭りのことを描くことにする」
「最後は描いてなかったの?」
「ああ、なんとなく」
「宿題ぜんぶ終わったって嘘じゃん」
「君にだけは言われたくない」

 こんな会話だけで楽しくなれるのに。

 ねぇ、佐々木くん、これが最後じゃないよね――?
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