佐々木くんは見えるらしい
エピローグ
 騒がしい声がする。

 夏休み気分が抜けない生徒たちの声だ。

 軽快なステップで階段を上ると、私の水色のランドセルの中で色鉛筆がガチャガチャと音を立てた。

 夏休み前と変わらない廊下。

 でも、変わったところもあった。

「あ……」
「また会ったな、木村優希」

 学校の廊下で私と会うなり、彼はふっと笑った。

 思わず、私も同じようにふっと笑ってしまう。

「おはよう」

 さわやかな朝に、さわやかな挨拶を彼に……。

 そう思ったのに

「なんか太ったおじさんが憑いてる」

 彼は私のうしろを見ながら、真顔になってそう言った。

「え?」
「君は本当にこりないな」

 ふっと鼻で笑われて腹が立つ。

 でも、いまは怒ってる場合じゃない!

「ちょ、ちょちょ、ちょっと助けて! 取って、取ってよ!」

 目の前に立つ彼に助けを求めながら、慌てて右と左から順番に振り返ってうしろを確認するけど、やっぱり私にはなにも見えない。

 廊下を歩く他のクラスの子たちが「え? なに? 虫?」って言ってるのが聞こえた。

「ムリだ。肩についた虫じゃないんだからそんなに簡単に取れるわけがない」

 さらっと彼は他の子たちが言ってたことを否定しながら、わざとらしく首を左右に振る。

「やだよ! 知らないおじさんやだ!」
「あ、ショック受けて飛んでった」

 私が大きな声で叫ぶと、彼はなにかを目で追うように言った。

 でも、私にはわかってしまった。
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