佐々木くんは見えるらしい
「佐々木くん……」

「保護されて施設にいるとき、詩とは離ればなれになった。生きてるのかも死んでるのかもわからなかった。僕のことを迎えにきた秋兎おじさんは詩の話をするとなぜか怒って教えてくれないし、周りを探しても探しても見つからないから、ずっと僕が作り出した幻だと思ってた。――でも、君の前にだけ詩は現れた」

 私が名前を呼んでも、佐々木くんは聞こえてないみたいに話を続けた。

「佐々木くん……」

「君が見たあと、この一ヶ月、一人で探したけど、見つからないんだ。僕の前には現れてくれない。もう生きていなくたっていい。ただ会いたいだけなんだ」

 ぜんぜん私の声、佐々木くんに届いてくれない。

 セミの鳴き声にかき消されてるみたい。

 伸ばした手が佐々木くんに届かない。

「僕は君を利用する。それが嫌だったら、もう僕に会いに来ないでくれ」

 なんで、そんな大人みたいな言い方するんだろう。

 もう、そんなふうにムリに大人にならなくていいのに。

 そんな悲しそうな顔で、どうして、私が困るような言い方するの?

 わかんないよ……、ねぇ、佐々木くん……。
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