佐々木くんは見えるらしい
詩という子、私と佐々木くん
 あの日、あのあと、秋兎おじさんに鍵を返さないと、と言って佐々木くんはお家に帰ってしまった。

 駅前に残された私は泣きながら自分の家に帰った。

 だって、佐々木くんの話があまりにも悲しかったから。

 それに上手く理解できなかったことがくやしかった。

 佐々木くん、私のこと嫌いなのかな……。

 私はちょっと仲良くなれたと思ったのに。

 それだけが気になって、私は夏休み、佐々木くんのお家に入り浸っている。

「あれだけ言われて、来るって、君は正真正銘のバカだな」

 夏休み初日、インターホン越しに佐々木くんに言われた。

 そんなことを言って玄関の扉を開けてくれないと思ったのに、彼はいつもと変わらない気だるげな表情で私の前に現れた。

 それでいまに至る。

 私だって自分のことバカだなって思ったよ。

 今日は夏休みが始まって五日くらい。

 リビングのテーブルを挟んで目の前に座る佐々木くんのことを見てみる。

 さらっとした黒髪には寝癖、毎日が休みみたいなのに、佐々木くんはだらけた夏休みをおくってるみたい。

 私はたくさんある宿題に追われてるっていうのに。

「佐々木くん、宿題手伝ってくれたりしないの?」

 鉛筆をくるりと無意味に指先で回しながら私は尋ねた。

「君はそのために僕のところに来たのか?」
「いいじゃん、別に。佐々木くんヒマそうだし」

 パッと見、すごい厚みのある本を読んでるだけだし、それって宿題じゃないよね?

 休んでるからって、どうして佐々木くんには宿題がないんだろう。

 もしかして、あるけど、無視してるとか?

「嫌だね。字の書き方でズルしたのバレるぞ」

 正しいことを言われてるんだけど、私はムッと唇をとがらせて「佐々木くん、宿題ないの?」と彼のほうに鋭い視線を向けた。

 それなのに、佐々木くんってば

「僕は宿題は先に終わらせる派だから」

 こっちを見ずにさらっと言ってのけた。

 まさか、この五日間で宿題を全部終わらせたっていうの?

 そんなのムリだよ、ぜったい、ムリムリ……!

「絵日記とか自由研究とかは?」

 私はテーブルに身を乗り出しながら佐々木くんにきいた。

「どうにかした」

 って、なんでぼそっと言うの?

 あ、絵日記とかウソ描いてるんだ、きっと。

 だって、未来のこと想像して描いてるんだもんね?

 でも、それも普通じゃできない。

「佐々木くん、頭、いいんだ……?」
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