桜吹雪が綺麗です。

八年前の呪い

 三木沢と歩かなかった小径を、柿崎と肩を並べて歩いた。

 八年前は座って接していることが多く、はっきりとはわからなかったが、すでに背が高かった。今はさらに身長が伸びているように感じる。
 一見すると細身だが、華奢な印象はない。動作も俊敏で、今でも身体を鍛えるようなスポーツをしていそうだなと思った。

「来週から、うちの会社でって聞いたんですが」

 下手に沈黙しないように話をふると「はい。よろしくお願いします」と模範的に返される。 
 明るい茶髪はちょうどあの頃と同じくらいの長さで、適当にサイドを後ろに流して結んでいる。スーツ姿とはいえ自由な印象を受けるが、くっきりとした端正な顔と甘く優し気な目元によく似あっていた。

(昔から、なんとなーく年齢不相応の余裕があるし。それこそ私がぼんやりしていると「先生、どうしたの?」なんて優しく声掛けてきていたし。うん……、優しいんだよね彼は)

 深入りしないように、と自分に言い聞かせる。
 彼が過去に自分に告白したのはおそらく黒歴史だ。
 こんな年増女に、今さら「あれ、まだ有効?」みたいな顔をされたら嫌なんてものじゃないだろう。
 気付いていないふり、覚えていないふりでやり過ごそう。

 おぼろげな街灯に、夜空が霞むほどの薄紅が照らし出されている。
 向かい風が吹き、その冷たさに目を細めながらも歩道に張り出した枝を見上げた。
 花びらが舞った。
 一瞬音が消えて、夜風が吹き抜けて行った。

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