桜吹雪が綺麗です。
 心配かけまいと明るく言ってみたのに、柿崎は眉を寄せて表情をくもらせてしまった。 

「無理に笑わなくて大丈夫ですよ。心のバランスの為に、悪いことの後に良いことがあったって、プラスマイナスで考えるのは良いと思いますが。自分責任じゃないマイナスを、自分の資産で補うのは理不尽だというか」

 本来なら、損害を与えてきた相手方に請求したいところです、と柿崎は真面目くさった様子で言う。

「そう、だよね。被害者が自分の気持を軽くするためにぱぱっと気晴らしにお金を使うにしても、そこに理不尽さはある……。でも、今日の場合、私は自分の資産は何もマイナスになってないというか、柿崎くんで補わせてもらったわけでして。あのっ、柿崎くんはマイナスになってない? 大丈夫?」

 柿崎のマイナスは、誰がどうやって穴埋めするんだろう。
 にわかに心配になったが、柿崎は千花から目をそらし、視線をさまよわせながら言った。

「俺は、正直に言えばいま滅茶苦茶プラスですよ。人の不幸を喜ぶ趣味はないし、最低の男に感謝なんか絶対にしませんけど。先生に会えて、話すきっかけもできて、すごくテンション上がっているし」
「そうなの!?」

 驚いて聞き返すと、少しだけムッとされる。

「なんでいまびっくりしました? 当然だと思いませんか、俺は先生のことが好きなんです」

 手にしていたマグカップを取り落としそうになり、千花はローテーブルにカップを置いた。
 心臓がドキドキしているのを感じながら、気づかれませんようにと祈りつつ、願い事を口にする。

「過去形で言ってください。それは、八年前のことだよね」
「今現在こうして再会しているのに、過去の話にする必要がありますか」

 理解が遅れた。

「好きなの?」
「この流れでびっくりされると、俺がびっくりしますよ。先生、鈍感にもほどがある……」

 柿崎は、ぶつぶつ言いながら瞑目してしまった。

(八年も経ってるのに!?)

 八年前、自分はそれほどの何かを、彼にしたのだろうか?
 あ然として言葉をかけることもできずにいると、柿崎は額を押さえて目を向けてきた。
 頭が痛い、という顔をしていた。

「今すぐにでなくて、構いません。考えてくれませんか」

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