桜吹雪が綺麗です。

桜吹雪

 抱き合って、唇を重ねて――

(する、のかな?)

 次の挙動をうかがっていたのは、柿崎に早々と悟られてしまう。

「男と女が二人きりだからといって、絶対しなきゃいけないものでもないですし。今日はやめておきましょう」

 きっぱりと、言われてしまった。

 そのまま朝まで、二人で肩を寄せ、ベッドに寄りかかって取り留めなく話した。
 柿崎は、千花の肩をに腕を回し、「うん、うん」と優しく頷きながら話に耳を傾けてくれる。
 その声の穏やかさと、人肌の温もりに気持ちよくなり、千花がいつしかうとうとしながら目を閉ざしたところで。
 ふわっと、身体が浮いた。

「え……? え!?」

 ばちっと目が開いた。
 抱きかかえられている!?

(これはまさかのお姫様抱っこ!?)

 身をすくめるほどに焦りまくって見上げると、見下ろしてきた柿崎にふわっと笑われた。

「俺、見た目より力あるね、って言われるんですよ。びっくりしました?」
「びっくりした……。人間持つのって大変じゃない?」

 揺るぎない、びくともする気配のない腕に支えられているのを感じる。
 ドキドキしながら尋ねると、腕にぐっと力を込められて固い胸にぴたりと抱き寄せられる。

(心臓やばい。無理。顔が見られない……!!)

 思わず目を瞑った直後に、ベッドの上に優しくおろされた。
 ここからどうするんだろう、とがちがちに緊張したまま見上げる。
 柿崎はといえば、何やら片目をつぶった「あちゃー」とでも言いたげな顔をして、手で額を押さえていた。

「俺、いましくじったな……。『力がある』は不適切だ。先生軽いから、持ってる感覚もないくらいだったよ」

 重いと言ったつもりはない、という言い訳のようだった。
 こんなときに、そんなことを考えている柿崎がなんだかおかしくて千花はついふきだしてしまった。笑いながら、手を伸ばして柿崎のジャケットの裾を掴む。

「そんなこと考えもしなかった。ほんとに力があるんだなって……。かっこいいなって思っちゃった」

 思ったのは事実だが、自分でもびっくりするほど素直に言ってしまって、そんな自分に驚いて掴んだ手をぱっと離す。

「お世辞じゃないよ!? 普段はこんなこと言わないんだけど、ごめん、なんか口すべった。浮かれているみたいで恥ずかしい~~、聞かなかったことにしてください」

 年齢差。自分くらいの中堅どころの社員が、後輩の新入社員の男の子にこんなこと言ったら、およそセクハラ認定されてもおかしくない。

(私こそやらかしたよ~~、柿崎くんがかっこよく見えちゃって)

 穴があったら入りたい、と思いながら目を閉ざす。
 そのとき、ギシ、とベッドが音を立てて沈み込んだ。

「聞いた」

< 32 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop