心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~
 もし、自分の夫でなければ、前髪を下ろして休日仕様の侯爵に、ほうっと見蕩れてとっても素敵な人ねで済んでしまうけど……私は仮初めとはいえ彼の妻として、ここは言わなければならないことがある。

「今日は、貸し切り……なんですか?」

「ああ……そうです。レニエラ。後から役者がここへ、挨拶に来てくれるそうなので……」

 おそるおそる尋ねた疑問をどう取ったものか、ジョサイアはにこにことして機嫌良く頷いた。

「私。こういう舞台劇は、たくさんの人と一緒に観たいです。その方がその場に居る誰かの息づかいや拍手を聞いて、感情を共有出来ると思うから……こうして、貸し切りして頂けるのは、すごく特別感があって……その、とてもありがたいんですけど、今回限りにして欲しいです」

「すみません。こうしたら、レニエラに喜んで貰えると思いました。先んじて、どうしたいか希望を聞くべきでしたね」

 ジョサイアは顔を赤くして恥ずかしそうにして俯いたので、私は微笑んで首を横に振った。

「いいえ。良いんです。ここまでしようと思って貰えるだけで、私は嬉しいので」

 ジョサイアが何か言おうとしたけど、劇場内には静かに音楽が鳴り始め、私はちゃんと席に腰掛けて舞台の方向を向いた。

 なんとなく……気がついていたことだけど、ジョサイアって、女性への対応がおかしくない?

 だって、夜会のドレスが要るって聞いたら、五着作らねばいけないとか、劇を観たいと言ったなら、劇場を貸し切ったりするの?

 なんだか、これって……。

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