ももちゃんとUMA

おいしい水

「やーめーなーさーいって本当に、あれは浄水器を売りたい人でナンパじゃないから、ほら見てももちゃん上手に躱してるでしょう、馬鹿、恥ずかしいからこんなことさせないで」

 ショッピングモールの通路で関は有誠を全力で羽交締めにしなければならず、なんでオレはこんなことをしているのだろう、と思った。有誠の筋肉がむちむちと関から逃れようと躍動している。

 ももちゃんは金髪にねじり鉢巻の若い男が差し出したティッシュを受け取らず、急いでますんで、という仕草で歩いて行った。

「ナンパではなくウォーターサーバー売りか、なるほど……ももちゃんに使わせるに相応しいか確かめる必要があるな」

「そんな必要ないから行こう。何しに来たんだってここまで」

 学校で使うものを買ったあと、フードコートのマックで軽くポテトでも食べようかな、男子高校生の青春。るんるん、みたいなことを思って、関はここまで来たというのに。

「そこのウォーターサーバーの人! ももちゃんにしょうもないものを売りつけようとしたらただじゃおかないからな!」

「やめて! もうやめて!」

「あ? もっぺん言ってみろ。うちのウォーターサーバーがしょうもねえだと?」

 この感じの人でウォーターサーバーにちゃんとプライドを持ってる人いるんだ! と関は感心しかけたがそんな場合ではない。

「うちは四代ウォーターサーバー屋でやってんだよ。ナメんな。文句があんなら使ってから言いな」

 そんな老舗のウォーターサーバー屋があるなんてびっくりだ、と聞いていた誰もが思ったが真偽の程は定かでない。

「どんな家にもフィットするスリムで悪目立ちしないフォルムに自動洗浄機能付きで衛生面もばっちし、おまけに設置は無料ときた。兄ちゃん、これのどこがしょうもねえって?」

「ほう。しかし肝心の水の質はどうなんだ」

「うちの裏山のすげー綺麗な湧き水を使ってるんだ。ただの裏山の湧き水じゃねえ。美味しいから鹿とか猿とか狸とかめっちゃ集まってくる」

 よくわからないがほのぼのした光景を関は想像する。

 ウォーターサーバーの人は小さい紙コップに水を入れて有誠に飲ませた。

「む、美味い。上品な味がする気がする」

「どーだ参ったか」

「いやはやこれは恐れ入った。まずは我が家で様子を見て、しかるのちももちゃんの家にも水を分けよう」

「設置するってことでいいんだな?」

「ああ! 親に相談してみる」

 
 ウォーターサーバー屋さんは誇らしげだった。関は早くマックに行きたいのにこんなことに巻き込まれて迷惑だった。

 親に相談した有誠は、そんなんいらないでしょ、と普通に怒られた。
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