優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
* * * *

 つぐみは時計を確認しながらため息をつく。きっと今日も遅刻なんだろうな……それかドタキャンかしら。

 友人主催の合コンで知り合った昌也(まさや)とは、二年ほど前から付き合い始めた。付き合い始めは少しズボラな彼のことが可愛く見えたし、自分がいろいろやってあげなければと甲斐甲斐しく世話を焼いたりしたが、それが逆に良くなかったのかもしれない。

 時間に遅れても適当にしか謝らないし、デートで外に行くことを拒むようになったのだ。昌也の家に行けば、家事をやって食事の準備をして、ダラダラと家の中で過ごして一日が終わる。

 ただつぐみがせかせかと動いている間、昌也はゲームばかりでソファの上から動かず、それがつぐみのストレスにもなっていた。

 私だって一人でソファに座って、ゆっくり読書だってしたいのに……なんでこんなことをしないといけないんだろうーー前までは自発的にやっていたことが、徐々に面倒になってくる。

 そうなると、あんなにも大好きでときめいていたはずの気持ちに翳りが差し、愛情が冷めていくのを感じていた。

 もうそろそろ限界かもしれないーーその気持ちを確かめるためにも、つぐみは昌也を家ではなく外の店へと呼び出したのだ。

 仕事が終わってからの待ち合わせだから、もしかしたら昌也は不機嫌かもしれない。いつも『早く帰ってゲームがしたい』が口癖だったから。

 でもそろそろはっきりさせないと……いつまでも気持ちを曖昧にしていていては前に進めない。

 再び時計を見てから背もたれにも寄りかかると、店内をぐるりと見渡した。まるで秘密基地のようなレンガの壁に覆われたバーは、先輩教諭に教えてもらった場所だった。

 いつかは来てみたいと思っていたけど、まさかこのタイミングで来ることになるとは思わなかった。

 半個室の席に座って飲むカクテルは、少しだけ味気なく感じる。私もまだまだ大人になりきれていないのかしらーーそんなことを思いながら苦笑いをした。

 その時だった。

「もしかして、中野先生?」

 こんな場所で名前を呼ばれるとは思っていなかったつぐみは、声のした方を振り返ると、大きく目を見張った。
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