店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「閣下、お帰りの前に一つよろしいですか? 実は、伝言をお預かりしております」
「んんー? 伝言? 誰からかにゃ? その可愛い声でボクの耳に囁いてちょうだいよ」

 とたん、マンチカン伯爵はジュニアを引き摺ってカウンターに戻ってくると、イヴの手を握って顔を近づけようとする。
 眉を跳ね上げたウィリアムが、カップ片手にその狭い額を掴んで阻んだ。

「午前中にロートシルト侯爵家の先代様が見えて、ご一緒に釣りをしましょうと仰せでしたよ。明日の朝五時、ケンル川沿いの物見小屋に現地集合とのことです」
「へえ、ロートシルトの坊やから誘ってくれるなんて珍しいなぁ。明日の朝、五時ね。了解!」

 アンドルフ王国の名門ロートシルト侯爵家のご隠居はすでに八十近いのだが、五百年以上生きてきた猫又にとってはいつまでも坊やらしい。二人は長年の釣り仲間でもあった。
 イヴから伝言を聞いて、マンチカン伯爵はとたんにウキウキし始める。
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