店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「ウィリアム様、休憩にしましょう。せっかくですから、煎りたてをお飲みになりますか?」
「そうだな。もらおうか」

 焙煎用の手網を一旦火から遠ざけ、代わりに焚き火の上に組んだ台の上にポットをかける。
 湯を沸かしている間に、イヴは小型のミルに今まさに焙煎したばかりの中深煎りの豆を入れた。
 ウィリアムは革の手袋を外しながら、それにしても、と口を開く。

「挽いた豆はできるだけ早く飲むのが鉄則なのに、焙煎した豆は二、三日寝かせる方がいいんだったか? 新鮮なものほどうまいというわけじゃないんだな」
「はい、焙煎したての豆にはガスが溜まっておりますので、粉にしてドリップする際、それがお湯の浸透を妨げるんだそうです」

 とはいえ、煎りたての豆には豆の味わいがある。
 ウィリアムがミルを代わってくれたため、イヴは側に置いていたバスケットからカップを二つと、自分用のミルクと砂糖を取り出す。
 すると、ゴリゴリと音を立ててミルを回していたウィリアムが、小さく一つため息を吐いてから、背後の茂みを振り返った。

「──おい、いつまでそうしているつもりだ。いい加減に出てこい」
「えっ……」
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