すずらんを添えて 幸せを
「何かに迷ったり、相談したいことがあったら、いつでも俺に語りかけてくれ。その時心に浮かんだ言葉が、俺の返事だ…って」

「あなた… 」

母さんはポロポロと涙をこぼす。

「それと…、この言葉も頼まれた」

「何?」

「…美月、いつもどんな時も、俺は美月のそばにいて美月を愛してる。これまで一人で尊を育ててくれてありがとう。でも美月の人生はまだまだ長い。俺のことは気にせず、いい人がいたら一緒になれって」

母さんは息を呑んで両手で口を覆う。

肩を震わせて、とめどなく涙を流す母さんに、俺はちょっと笑ってみせた。

「俺がさ、そういうことは直接本人に言えよって言ったら、父さん、『それが出来たらどんなに良かったか』って。俺が、いいのか?母さんが他の人と結婚してもって聞いたら、『ああ、もちろん』って言った後、いきなり『良くない!だって美月は俺の美月だぞ?誰かに触れられるだけでも腹が立つ!』ってさ」

母さんはこれ以上ない程目を大きく見開く。

「父さん、その後もひたすら葛藤してたよ。『俺はもう、美月を抱きしめてやれないんだ。いつも一人でがんばっている美月を、温かく包み込んでやれない。それならいっそ、誰かが…。でもやっぱり嫌だー!』って」

すると耐え切れないとばかりに、母さんは吹き出した。

「バッカじゃないの?何言ってんのよ、もう!いつだってお調子者なんだから。死んでも性格って変わらないのね」

泣き笑いの表情で母さんは続ける。

「いつまでも未練たらしく私に取り憑かないでよね。他の人のところに行けないじゃないのよ。私の心の中には、今でもずっとあなたしかいないんだから。どうやっても、あなたのことしか考えられないのよ。どうしてくれんのよ?!」

やれやれと俺はため息をつく。

「だから、父さんも母さんも、そういうのは直接本人に言ってくれ」

「分かったわ。ちょっと、あなた!」

立ち上がってチェストに向かう母さんに、もう一言つけ加える。

「父さん、俺のこといい男になったって。甘ったれで泣き虫だったお前がな。さすがは俺と美月の息子だって」

母さんは一瞬驚いた後、パッと笑顔になる。

再びチェストのフォトフレームに向かう母さんを残して、俺はそっとリビングを出た。
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