すずらんを添えて 幸せを
(なんでこんなことになったんだろう)

仏頂面のまま、私は車の窓から外の景色を眺めていた。

あの後、5分待って現れた尊は、私と同じようにパーカーとジーンズにスニーカー姿で、唯一違うのは車のキーを手にしていたことだった。

どういうつもり?と問い詰める私に、黙って見逃してやるがその代わりに同行すると言って聞かなかった。

そして今、私は尊の運転する車の助手席に座っている。

「おいおい、いつまでへそ曲げてんだ?車で行く方が断然早いし楽だろ?」

「そうだけど…」

確かにそれはありがたい。

はっきり言って何時に着けるのかも全く分からず、日帰り出来るのかも危ぶんでいたのだから。

(でも何しに行くのか、どうするつもりなのか、尊には説明出来ないしな)

とりあえず、富士山に行くとだけ伝えて高速道路を走ってもらっていた。

だが途中のサービスエリアで休憩していると、尊は真面目に聞いてきた。

「蘭、富士山って言ってもめちゃくちゃ規模が大きい。具体的にどこにって言ってくれないと、この先は走れんぞ」

「あ、うん。そうだよね。じゃあ須走インターチェンジで降りて」

「須走ね、分かった。その後は?」

「分かんない」

は?と尊は素っ頓狂な声を上げる。

「おい、インターチェンジ降りて、そこからどうするんだ?」

「うーん、歩いて探す」

「何を?」

「川」

川?と尊は眉根を寄せる。

「え、富士山に流れてる川か?」

「そう」

「いや、待て。そもそも富士山に川なんて流れてないぞ。八百八沢って言われてるけど、どれも水が流れてない『水無川』だ」

「へえ、よく知ってたね」

「当たり前だ!おい、大学生をバカにしすぎだぞ?富士山の土壌は『スコリア』っていうたくさんの穴が開いた火山噴射物で覆われているから、雨水は地表に残らずに地下に染み込んでしまう。まあ、全部が全部スコリア質の土壌って訳ではないと思うけど。でも聞いたことないぞ?富士山の川なんて」

「私のお母さんは見たの」

「ええ?富士山で、川を?」

「そう。私とお姉ちゃんがお腹に宿った頃に見たんだって」

尊は目を大きく見開いていてから、キリッと顔つきを変えた。

「蘭、その話詳しく聞かせて」

私は少し躊躇してから、思い切って話し始めた。
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