エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない

2 デートの誘い

(いや、『はい』じゃない! よくよく考えればとんでもなく流されてる……こういう軽はずみな言動が破滅を招くと、私は知っているはずなのに)

 翌日、事務所に出勤した由依は「やっぱり断ろう」と決意を固め、鞘白の執務室の扉を開け放った。

「おはようございます、先生」
「ああ、おはよう小鳥遊。本日の打ち合わせの件だが——」

 朝日に照らされたデスクに座る鞘白の様子に変わりはない。由依が入室するやいなや矢継ぎ早に指示を出され、慌てて手帳片手に鞘白のデスクに近寄った。

 そのまましばらく仕事の話が続き、正直なところ由依は拍子抜けしていた。

(……なんだ。あれはただの慰めだったの)

 よくよく考えなくても鞘白が由依を選ぶ理由などない。大手である鞘白法律事務所のパートナー弁護士で、次期所長と目され、優秀でクライアントからも信頼を勝ち取り、唸るほど稼いで顔も良いときている。女性秘書から大人気なのはもちろん、女性クライアントがよろめくのを由依が止めなければならないくらいなのだ。もっと綺麗で可愛い人がいくらでも寄ってくるに決まっている。

 もしかするとあの一連の出来事は、稔と愛衣の話にショックを受けた由依が作り出した幻覚だったのかもしれなかった。むしろそちらの方がよほど可能性が高い。
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